<卒業生インタビュー>OIMO cafe オーナー 武田浩太郎さん
「ウィズコロナ」の時代。
外食産業を担う卒業生たちは、今どのような心持ちでビジネスをしているのでしょうか?
最前線で活躍されている卒業生にヒントをもらうべく、「OIMO cafe」オーナー武田浩太郎さんにインタビューを行いました。
<在校中について>
―――― レコールバンタンキャリアカレッジでのコース名、卒業年次を教えてください。
2010年に入学し、カフェオーナーコース(※現:飲食店開業コース)に通いました。
週末コースもありましたが、平日のほうが都合が良かったので、木曜日コース(※現在キャリアカレッジは土・日開講のみ)を受講しました。
―――― 入学したときはおいくつですか?
30歳のときです。
―――― クラスは何名くらいでしたか。
25名くらいです。本気度の高い方が多かったですね。
―――― それまではどのようなお仕事を?
大学院生で、司法試験を受けていました。就活なども経験しましたが、心機一転、家業である農業を継ぐことにしました。
現在の「OIMO cafe 上富」は、かつてトラクターなど農業機材が置いてあった場所です。ここでお店をしたら面白いなと思ったんです。カフェ隣に広がる「むさし野自然農場」は、江戸時代より320年以上続くさつまいも農場です。
僕は三人姉弟の中間子の長男で、30歳のときに、「ゆくゆくは自分が家業を継ぐ」という話になりました。親も元気なので、比較的自由度が高い状態でしたね。
―――― なるほど。レコールバンタンキャリアカレッジを選ばれた理由を教えてください。
司法試験に落ち、実家の埼玉県三芳町上富に戻ろうというときでした。
開業を決意し、シェフや、いわゆる料理人を目指すわけではなく、「カフェを開くための勉強」がしたいと考えました。インターネットで検索して、ヒットしたのがレコールバンタンキャリアカレッジです。当時、カフェを開業するためのスクールは、そんなに数が無かったと思います。通学は、埼玉県から通っていました。
―――― 学びたい、身につけたい目標は何でしたか?
実家でのカフェ開業を進めるための知識です。
学生のときに飲食でバイトしたことはありましたが、本格的に調理の基本、コーヒーの基本を勉強したいなと思いました。カジュアルな雰囲気も良いと思いました。ただ、入学金は高かったので、2~3年は月賦で払っていたと記憶しています。
―――― なるほど。特に、印象的だった講師はありますか。
どの授業も楽しかったです。カフェオーナーコースは、座学で受ける経営のクラスもあり、調理の実技も多かったと記憶しています。
レコールバンタンキャリアカレッジの授業も、イタリアンバル、シアトル系カフェが主流で、シングルオリジンなどは、未だ考えとして出ていなかったですね。
ドリンクは、篠崎講師、専門家・江沢講師に習いました。調理は、「36.5℃ Kitchen」オーナーシェフの宮本講師や手塚講師にオムライスやハンバーグを習いました。特に、宮本講師には「武田さんは、中華だよね~」と、イジられたのを覚えています(笑)調理の授業で、鉄鍋をふるのが好きだったので。もともと料理好きでしたし、プロフェッショナル講師から教わることで、調理の基本が分かりました。それは、今のカフェ運営にも活かされていると思います。
―――― 印象的だった授業は?
手塚講師の授業も、宮本講師の授業もすごく覚えています。真剣にメモを取っていました。
ある授業で、さまざまな醤油をなめ比べたことがありました。ご当地醤油など色んな味を試した結果、多くの人が美味しいと感じたのは、キッコーマンだった、なんてことも覚えています。ご当地だから美味しい、のではなく「食べ慣れているから美味しい」ということが分かる、実践的な内容でした。
近年、調理の分野は科学的なアプローチが多くなされていますが、当時から「フードテック」のエッセンスも感じられました。
―――― レコールバンタンでの学びが「実践的だった」「今のビジネスに活かされている」と感じることは?
「OIMO cafe」のスイートポテトは、オープン前に考えました。お芋のブリュレなどのメニューにも、レコールバンタンキャリアカレッジで学んだことが還元されていると感じます。
今、僕は店頭には立っていませんが、調理の知識がないと現場スタッフと会話が嚙み合わないと思います。
―――― オーナーとしても、調理や経営の知識は必要でしょうか。
そう思います。例えば、他の飲食店に食べに行っても、得られるものが多いですよね。あまり知ったようなことは言えませんが、味のバランス、コースの構成、盛り付けのトレンドなど、入ってくる情報が多いです。「エスプーマ」や、「スモーク」のような演出も出てきていたりしますよね。
飲食店をやっていて、僕自身が生産者で農家というのもあるかもしれませんが、こだわっていくと素材に行きつくと感じます。
―――― 同感です。ところで、飲食業界でアルバイトなどをされていましたか?
大学生の時、恵比寿の「カーディナス・チャコール・グリル」でアルバイトをしていました。僕はホールスタッフで、かろうじてオーダーが取れるかなというくらいでした。今になって分かるのは、バッシングのタイミング、オーダーもただ取ってくるのではなく、クリーム系のものが続いたら爽やかなものを提案する、ランチの素材を覚えて説明する……など、食べることに関しての基礎を教えていただきました。当時の先輩には「トイレは、舐められるくらい掃除しなさい」と教えられました。当時20歳くらいだったので、そのレベルまでは到達できていなかったな、と思います。
今、オーナーになってアルバイトのスタッフに同じことを伝えています。「素材を知り、説明できると楽しい」と伝えています。オープンから一緒に頑張ってくれている店長も、「見えないところを、大事にしよう」と言います。そうしたところも、お店が続いている要素のひとつなのかなと思います。
<卒業後について>
―――― 開業された経緯について教えてください。また、開業当時おいくつでしたか。
先ほどもお伝えした通り、家業を継ぐことになり、新しいビジネスとしてカフェ開業を考えました。
しかし、当初は、家族全員がカフェを開くことに反対していました。「集客が難しい」「続かないのでは?」「失敗したら恥ずかしい」などの意見がありました。
祖母が「農業を継いでくれるなら、好きなことをやらせてあげたら?」と応援してくれたことで、風向きが変わりました。オープンは、32歳のときです。
―――― 開業された年、店名、コンセプトなど、こだわりを教えてください。
<オープン日>
2013年です。
<経緯>
カフェよりも農場併設の直売所の方が歴史は古く、30年ほど営んでいます。特に9~12月にお客さんが多いです。サツマイモの選別や用意に時間かかるので、「カフェでコーヒーでも飲んで待っていてください」というイメージを持ち開業しました。
また、直売所の繁忙期以外のシーズンも、お客さまに足を運んでもらえたらという想いもありました。
<店名>
お芋が中心のカフェなので「OIMO cafe」としました。フォントもオリジナルです。
<場所>
埼玉県上富地区です。30ほどのさつまいも農家が並ぶ、通称「いも街道」と呼ばれる通りがあります。その一角にある自社農場「むさし野自然農場」の隣に位置しています。
<デザイン>
自分でインテリアを研究し、色んな人と出会いアイデアを蓄えました。独身だったので、平日は農業をして、他の日に食べ歩きをして、「飲食店をやろうと思う」と色んな人に相談しました。
「OIMO cafe上富」は、空間デザイナー・小林幹也さんにデザインしてもらっています。カリモクなどのデザインで知られている方です。埼玉県三芳町という田舎なので、DIYや手作りといった手法もあったと思うんですが、素人の範疇ではなく、洗練された空間にしてギャップを出したかったんです。
2店舗目の「OIMO cafe 善福寺」もお願いしています。また、3店舗めの「OIMO cafe碑文谷」はKIOSK的な店舗で、株式会社 小林幹也スタジオさんが手掛ける「IMPLEMENTS」に併設しています。出店場所は、ご縁で決まっていく感じですね。
<コンセプト>
チェコに留学していた経験があったので、小林さんに「チェコの要素、雰囲気を取り入れたい」と相談しました。ですが、小林さんが、サツマイモを洗ったときの鮮やかな赤色に感激され、「シンプルに『OIMO cafe』が良いのではないか?」と、方向性を提案されました。
ウチで働いているのは、星つきのシェフではありませんが、お芋に関しては強いこだわりとプライドを持っています。素材にこだわり、質のいいものを提供することにオリジナリティがあると考えています。
また、都内に行かずとも、贅沢を味わってもらえる場所にしたいなと考えました。
<ロゴデザイン>
知り合いの友だちがイラストレーターだったので、ロゴデザインを依頼しました。「こういうお店をやりたい」というビジョンと、シンプルなテイストが好みであることを伝えました。イラストレーターさんが考えてくれたデザインがベースになっています。
<想定していた客層>
20、30代ターゲットにしたいと考えていました。近所に住んでいる人は少ないですが、車で30分圏内なら、お客さんはたくさんいます。マーケティングに長けた人からは「駅から遠いから、集客が難しい」と言われましたが、車で来る方がこんなにいるということは、誰もとらえきれていなかったと思います。
今、平日は女性が9割を占めます。子どもを学校に行かせて、11時くらいにママたちで食事会をされることが多いですね。オーガニックやヴィーガンではありませんが、お子さんからお年寄りまで迎え入れています。20代カップルの横で、ご高齢の夫婦が食事を楽しんでいる光景が日常的に見られます。
「お子さまランチが欲しい」といったニーズがあることは承知していますが「大人が楽しめる」という軸はズラしたくないと思っています。ショッピングモールの中にあるキッズ専門のお店には寄せないようにしています。でも、ソファ席にお子さんを寝かせてもいいですし、おもてなしとしてオレンジジュースやりんごジュースはお出ししています。
―――― 「大人が楽しめる」軸をズラさない理由は?
子どもをターゲットにしたお店は他にもあると思います。なので、「自分と同じ世代の人にこそ、楽しんでほしい」と思います。例えば、子どもが生まれて「都内のバルには連れていけない、でも、美味しいものが食べたい」という人は多いのではないでしょうか。
「OIMO cafe 上富」は、一歩外に出れば、畑、竹林、農家の雰囲気を楽しんでいただけます。僕自身は生まれ育ったから、当たり前の風景でしたが、農家の敷地に入ったことがない人も大勢いますよね。初めての方からすると、新鮮なのではないでしょうか。
畑も竹林も、「どうぞ楽しんでいってください」という雰囲気です。アグリツーリズムとか絡めてもいいと思いますが、今は「カフェも、併設の直売所も丁寧にやっていこう」ということで落ち着いています。
<直売所とカフェの関係>
有難いことに、今はランチも予約で席が埋まるようになっています。お店の評判は、口コミで広がっていきました。
カフェ目的で来てくださり、直売所を知らないお客さまも増えてきて、逆転の現象が起きています。相乗効果も出ていて、直売所も売り上げがグンと増えました。農業も人が増えて、生産量を増やしています。
―――― 特にオススメのメニューは?売れ筋はどの商品ですか。
壺でじっくりと焼く「焼き芋」が、安定して売れています。あとはオープンしてからずっと、ランチが売り上げを支えてくれています。焼き芋の値段は、8年間で上がりました。かつては、100g、100円でしたが、今は100g、220円くらいです。
―――― 生産者として、大切にしていることは?
ひとつは、もったいない野菜、これまで捨てられてしまっていたサツマイモをスイーツに変えるなど、SDGsの部分です。
もうひとつは、川越イモのブランディングに貢献し、価値を高めていきたいという想いがあります。お客さんの中でも、サツマイモの保存、食べ方が分からない方が多いです。天ぷらだけではなく、例えばコーヒーとのペアリングなど、新しい食べ方を提案するなど、コミュニケーションを取りたいです。川越イモは、茨木県よりも生産量こそ少ないですが、価値を高めていけたらと考えています。
―――― イベントへの出展も、積極的に行われていますね。
そうですね。埼玉スーパーアリーナけやき広場で行われる「さつまいも博」、家具ブラン「MOMO NATURAL」POP UP SHOPなどにも出店します。実店舗を大事にしながら、通常の営業で接しない方にも知っていただく機会はこれからも作っていきたいです。
―――― 開業されて経験されたご苦労についてお聞かせください。
人間関係です。
「OIMO cafe」店長の三國さんは、僕より年上の女性ですが、しょっちゅう議論します。分からないことは何度も聞いてきて、言い合うことも。今でこそ、だいぶ落ち着きましたけれど……。
例えば、スイーツ3点盛りがあります。皿の上にカップをのせているのですが、カップの底に接着剤として生クリームをつけたい、と相談されました。その点に関して、数時間の議論です。他にも、ブリュレには、手作りのクッキーがついているのですが、僕としては、忙しいときなどは「無くてもいいのでは?」と思いますが、店長は「ダメ」と。
僕は、経営者でありどうしても男性目線なので、店長の目線、女性の目線は、大事にしないといけないなと思っています。最終的には要望を聞いて良かった、というケースも多いです。ただし、採算面は伝えます。あくまでもオーナーとして「お店を任せている」という視点でとらえています。基本は、信頼して任せているのですが、根源的な「素材を大事に」「シンプル」「ガチャガチャするのは好きではない」、ということは伝えています。
現在、三國さんはマネージャーを務めています。2年前に、店長から、イベントや他店舗を管理する立場に異動しました。
働いているスタッフをリスペクトしながら、スタッフの自主性を大事にしたいと考えています。
―――― 新型コロナウィルスの流行で、工夫された点や日頃、心がけていらっしゃることについてお教えください。
「OIMO cafe 上富」でも、Uber Eatsを導入したんですが、付近にドライバーがいないんです。なのでデリバリーはできませんが、お弁当を注文してテイクアウトしに来てくださる方はいますね。
「OIMO cafe 善福寺」も、Uber Eatsを導入しています。
いちばん大きいのは、ECサイトです。農業でヤマト運輸さんとお付き合いがあるので、『らくうるカート』を使っています。売り上げに占める割合は、10%以下です。ただし、これまで焼き芋のイベント出展で、出会ったお客さんなどにもリーチできているのかなと思います。ECサイトがないときは、ショップカードを渡すけれど、お店にも来られず、そこで終わってしまっているケースも多かったので。
―――― 飲食ビジネスの面白さ、喜びについて教えてください。
お客さまが喜んでくれて、「ここのお芋はおいしい」と言ってもらえると、農家としても、焼き芋を提供するカフェとしても、とても嬉しいです。
あとは、スタッフの成長を感じられたとき。お客さんからも「サービスがすごく良かった」と聞くと自分ゴトのように「良かった良かった」と思います。親心ですね。
―――― 大変さはどのようなところでしょうか?
商品の特性上、常に緊張感があります。素材も自社の「むさし野自然農場」なので、ごまかしがききません。特に焼き芋のイベントなどに出展するとき、ゾクゾクするときがありますよ。焼き芋は試食することができないメニューですが、品質チェックのために何本かに一本は試食しています。
―――― 飲食業界で活躍するうえで、必要なスキルとはどのようなものだとお考えでしょうか?
この10年間で、飲食業界がものすごく変わったと感じます。例えば「バリスタ」という職種が存在すること。コーヒーを淹れることが技能として認められ、若者にとっても一つの選択肢になっていると感じます。大切なのは探求心、物事の進め方のような気がします。
また、どの立場でどうするか、お店に立ってずっと采配をとるパターンと、オーナーの立場で関わるのとでは、必要なスキルや考えた方も違うと思います。
個人的には、加工品ベースで提供する食事とは差別化するべきだと思います。こだわると素材にたどりつくと思うので、ぜひ農場、牧場にも視野を広げてください。熟成なのか、新鮮なのか、そういうころも考えると面白いです。冷凍技術も発達しているので、素材ひとつにしてもさまざまな選択肢があります。
また、これは授業の受け売りですが、「カフェって実態がありません。カフェとレストランの違いは?と聞かれて説明するのは難しいです。カフェは、レストランよりも食事で手を抜いていいのでしょうか?自分たちで定めないと、カフェは何でもアリになってしまいます」。何をその空間で提供するのかが大事です。美味しいは当たり前で、滞在する2時間で、お客さまが何に満足するのかというと、音楽、接客、空間など、食事だけではない要素も影響しています。
どういうものを提供したい、という提供側の目線になりがちですが、一方通行ではなく、どんなストーリーが展開されるかを考えられると良いと思います。
―――― 今後、チャレンジしたいことはありますか。
焼き芋は、じっくり焼くと美味しいと言われていますが、意外と解明されていないことが多いです。加工の部分にも、もっと可能性があると感じています。
またコロナ禍前ですが、2018年にはフランスに行きました。パリの無印良品さんの軒先で、焼き芋を販売させていただき、大変好評でした。なので、これからもそうしたチャレンジを続けていきたいですね。
―――― 入学を迷っている方がいたらバンタンをオススメしますか?またオススメしていただける場合、どのような点がオススメでしょうか?
まず、代官山という立地がいいと思います。最前線で活躍するプロフェッショナル講師から実技を教わることができます。都内のいろいろなお店に食べに行くこともできるので、オススメします。またクラスメイトとの繋がりにも恵まれました。札幌「Maya café」 の石川くんは、1店舗目をオープンするときに、スタッフにコーヒーを教えに来てくれました。
―――― 入学を検討されている方、飲食ビジネスを始めようとされている方へ、メッセージをお願いします。
食文化に関われることは楽しいですよ。1日3回、人の喜びに関われる仕事です。美味しいものを提供すると喜んでもらえます。また、ビジネスを続けられるような経営的エッセンスを持ち、「美味しいものは伝わる」という信念を持ってください。
<INFO>
OIMO cafe 上富
oimocafe6340@gmail.com
埼玉県三芳町上富287
090-2729-5236
OPEN:水~日 11:00 – 18:00
CLOSE:月・火(祝日営業)
他に、善福寺、碑文谷の計3店舗を展開。