<卒業生インタビュー> 伊酒屋 ばじりこ オーナーシェフ八田尚美さん
「ウィズコロナ」の時代。外食産業を担う卒業生たちは、今どのような心持ちでビジネスをしているのでしょうか?最前線で活躍されている卒業生にヒントをもらうべく、東京・押上にてカジュアル居酒屋「伊酒屋 ばじりこ」を経営する、オーナーシェフ八田尚美さんにインタビューを行いました。
<在校中について>
―――― レコールバンタンキャリアカレッジでのコース名、卒業年次を教えてください。
2004年9月からカフェ開業コース(現在の飲食店開業コース)で1年間学んだ後、半年間の応用コースを追加で受講しました。
―――― クラスは何名くらいでしたか。スケジュールも教えてください。
カフェ開業コースの授業は週2回、平日の夜19:30頃から授業(現在は週一回日曜日)があったと思います。また、カフェの授業も取っていたので、土曜日に授業があり週3回通っていました。クラスは、20名前後いたと思います。
―――― 入学されたのはおいくつでしたか。
35歳のときです。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジを選ばれた理由を教えてください
2002年から、会社を辞めてイタリアに留学していました。
ワーキングホリデーのような形で、午前中は語学学校に通い、午後は現地のレストランで働いていました。
1年間留学し、2004年2月に帰国しました。「いつか自分でお店をやりたいな」と思っていたので、恵比寿のバールでアルバイトしていました。
会社員時代も飲食業界ではなかったので「開業するなら、飲食業界の基礎を知っておきたい。働きながら学びたいな」と思っていました。
―――― なるほど。イタリアのレストランでは、どのようなお仕事を?
もともと料理人として渡った訳ではないので調理補助から始めました。2件目のレストランはホテルでしたが、前菜、ドルチェを任され、大量に仕込んでいましたね。
―――― 数ある専門校の中から、レコールバンタンキャリアカレッジを選ばれた理由は?
社会人が学べるスクールは限られています。調理師学校は昼間のコースが多いので、仕事をしていると通学できません。効率的に学べるところに魅力を感じました。
―――― 入学当時、お仕事はされていましたか。
はい。定時であがれる仕事だったので、レコールバンタンキャリアカレッジと両立することができました。
いつか自分で開業したいという目標があったので、資金を貯めるために派遣社員として働いてました。
―――― 印象的だった講師、授業はありますか。
私の場合は実践から入っていたので、改めて基礎を学びたいと思っていました。最初は、サラダの調理でも、葉っぱの千切り方から教えてもらいました。
理論的に教えてくださり「こういう目的でこういう作業をする」と一つひとつ丁寧に教えてくださった記憶があります。
現場だと、そういう説明はなく、ただ作業をこなすことに終始しがちなので、改めて知れたことは良かったです。
ちなみに、レコールバンタンキャリアカレッジで教鞭をとられている宮崎講師とは、同期です。
―――― そうだったんですね!レコールバンタンキャリアカレッジでの学びが「実践的だった」「今のビジネス」に活かされていると感じることはありますか?
基本を学んだことで、プロが使うような料理用語も知れましたし、業界への理解が深まりました。
私自身、ずっと飲食業界に身を置いていた訳ではないので、お客さまには「脱サラして、調理の専門校で学んで、お店を始めました」と説明することもあります。
基本的な知識や技術は習得できたのではないかなと思います。
―――― 印象的だったイベント、販売実習などはありますか。
販売実習はなかったです。卒業制作展で、チームでメニューを考案して、サービスするところまでトータルでカフェ運営を行いました。
原価を考えたり、オーナーの視点を得る良いキッカケになったと思います。
―――― 在学中、アルバイトなどで飲食業界の経験をされていましたか?
レコールバンタンキャリアカレッジを卒業してからも、昼間は正社員として仕事をし、夜は副業として飲食店の厨房でバイトをしていました。
お店としては3店舗で、恵比寿のイタリアンバール、カフェでの調理、ピッツェリアの厨房で経験を積みました。
任される仕事は限定的ではありましたが、飲食業に携わっていることで、人脈が広がり、飲食業界の知人が増えました。
今のお店の物件を紹介してくれた不動産屋さんも、元々飲食業界で働いていた人で、その関係で知り合った友人です。
<卒業後について>
―――― 開業された経緯を教えてください。
2019年8月オープンです。2006年に卒業してから、15年ほどかかっています。
―――― 準備期間が長いと、開業のモチベーションが低くなってしまいそうです。そのようなことは無かったですか?
ずっと周囲に話していたので、やるしかないという気持ちは変わりませんでした。周りの人に発信することによって自分を追い込み、絶対成し遂げようと思っていました。
―――― 準備期間はどのように過ごされていたのですか。
昼は、正社員として働き、資金を捻出しました。開業まで、物件探しはずっとしていて、いい条件の物件があればいつでもやろうと思っていました。
自分の足でも探していましたが、立地が良くても賃料が予算に合わなかったり、しっくりこなかったりして、理想の場所に合えずにいました。
開業のキッカケになったのは、現在の物件と出合ったことです。
友だちの不動産屋さんが紹介してくれた物件のなかの一つに入っていたし、元々気になっていた場所でした。
自宅から歩いて行ける距離で、以前は老舗のもつ焼き屋さんが入っていて、私も訪れたことがありました。立地が良く「いずれは、こういう場所でやりたい」と思っていました。
路面店で、広さも一人でやっていこうと思っていたので10坪前後、自分にしっくりきたので即決しました。
―――― 開業された時期、場所、店名、コンセプトなど、こだわりを教えてください。
<店名・コンセプト>
「伊酒屋 ばじりこ」です。コンセプトは、レコールバンタンキャリアカレッジで開業のコースを受講していたときに、お店のコンセプトなどを決める授業があり、「イタリアンバール」を開業しようと決めていました。当時、イタリアから帰ってきたばかりで、洋風なバールは少なかったです。時が流れて、バールやカフェも当たり前になっていきましたが、ありふれた感じではなく、下町の雰囲気に合うお店にしようと思いました。
暖簾も出ているので、一見すると和食屋さんですが、実はイタリアン料理・ワインというギャップが楽しめます。
コンセプトはひらめきです。前から温めていたアイデアではなく、物件から発想しました。
<ばじりこ>
屋号を付けるときに悩んで決めました。誰でも読める平仮名にしたく、イタリア人の友だちに「名前を考えてよ」と頼みました。たくさんアイデアを出してくれた中の一つが、バジリコだったので、これを平仮名にしたら可愛いし覚えやすいと思いました。お客さまにも年配の人が多いですし、読みにくいイタリア語というよりは単純な名前にしたかったんです。
<内装>
ご年配の方も、若い人も、どの世代の人も入りやすい雰囲気を目指しました。実際、いろいろな世代のお客さまにお越しいただいています。
前のお店の内装が残っていましたが一回、スケルトンにしました。L字型のカウンターになっていて、可能であればコの字型にし、私自身もしくはお客様同士が全員の顔を見て喋れるようにしたいと思っていました。コの字がスペース的に難しかったのでLの字にしました。内装業者さんは、友だちの紹介です。
<客層>
地元に住んでいたり、働かれていたりする30代、40代が多いです。70代の人もいます。最近では、20代の人もポツポツいらっしゃいます。
押上は、小さい会社もあるので、会社帰り、自営業の方は早めの時間帯にいらっしゃいます。常連さんの中には、週に何回もいらしてくださる人もいます。
―――― 特に、人気のメニューについて教えてください。
定番は8種類あります。週替わり、日替わりの黒板メニューがあります。固定メニューは、すべて税込み430円です。
「ポテトサラダ」は定番ではありませんでしたが、店名のバジル(バジリコ)も入っており、常連さんの要望もあり、固定メニューにしました。
他には、ローマのレストランのレシピで仕込んだ「レバーペースト」、「砂肝のコンフィ」が人気です。
お一人で来られて、1、2品頼んで、2~3杯飲んでという人が多いので、お通しはつけていません。一皿小さいポーションにして、その日の気分に合わせて選べるようにしています。
―――― 「値付け」はどのように行われていますか。販売価格の付け方など、コツがありましたら教えてください。
原価から算出しています。週に2回、3回、毎日と来てくださる常連さんもいるので、「千ベロ」じゃないですが、一品一品の単価はあまり上げず、1000円から2000円あれば、楽しめるようには心がけています。ハウスワインは、430円(税込)です。
しっかり飲食したい方には1000円を越えるパスタやお肉料理も用意しています。お客さまがシーンに合わせて使い分けをできるような設定です。
昨今食材もワインも値上げになっているので、今後、見直しは必要かなと思います。
―――― 開業されて経験された苦労についてお聞かせください。
一人でやっているので、いちばん大変だったのは初年度の確定申告。毎日の仕入れ、売り上げ、日々の在庫管理、帳簿付け……そうした事務処理が大変でした。
集客に関しても、広告宣伝を一切やっていません。ウチも、完全に安定しているとはいえないけれど、おおよそ1週間でこのくらい、という売り上げ目標を定めています。
今日暇でも、他の日が忙しかったらいい、という考えなので、積極的にSNSなどで宣伝はしていないです。活用してもいいんでしょうが、一見さんというよりも、地元の人に来ていただきたいですし、リピートしていただけたら嬉しい。
お客さんがお客さんを連れてきてくれるのがいちばん嬉しいですし、クチコミに頼っています。しばらくは、これでいいかなと思っています。
―――― 新型コロナウィルスの流行について、ご自身のビジネスへの影響は感じられますか?
地元の方が多いので、そこまで、大きな影響は受けていません。今(取材時2022年8月上旬)は、だいぶお客さんも戻ってきてくれています。
区の補助金なども利用し、パーテーションや消毒液を購入しました。できることは限られていますが、角地で、窓が多く春先とかは換気をして、営業していました。
―――― 飲食ビジネスの面白さ、喜びについて教えてください。
もともと一人で来てくださった常連さん同士が繋がって、仲良くなり、ファミリーのようになり、輪が広がっていくのが私の理想としたスタイルです。
会社員の頃、ホームパーティをやっていたんです。私の会社関係の友だちを招いたり、学校の友だちだったり、ジムの友人を招いて、大事な人たちが友だちになるのが好きでした。
そのスタイルをお店でやりたいなと思っています。大切な友だち同士、繋がっていくことでコミュニティが広がっていく様子を見られるのが嬉しいです。
―――― 大変さはどのようなところでしょうか。
仕込みと、オーダーがマッチしないときがあります。自分の読み通りにいかず、ロスが出てしまうことがあります。
カウンターの面白いところは、他の人がオーダーすると、それにつられてオーダーが入ることが多いです。また、お客さまの中には、気遣って他の人に合わせてオーダーしてくれる人もいます。昨日は出なかったメニューが今日はとても出る、なんてこともよくあるんです。また、その日の客層にも左右されるので、仕込みと売れるものが一致しない、読めないところが大変です。
―――― 飲食業界で活躍するうえで必要なスキルは?
よく言われるのは「人間力」。料理が美味しいのは当たり前です。どんなに美味しくても、お店に行こうと思う理由は人だと思います。
特に、対面でカウンター形式のお店なら、コミュニケーションスキルも大切です。
―――― 今後の目標はありますか。
将来的には、信頼できるスタッフを見つけて、もう一店舗やりたいな~と思います。これから体もキツくなってくる年齢なので、経営する側にまわれたら。いずれは、ゆっくり休みながら、のんびりやりたいです。自営業だと大変な部分もあると思いますが、自分のペースでできるのもいいところ。未だもう少し、自分でやっていくつもりですが、いずれは週休3日にして無理せず自分のペースで営んでいくことが理想です。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジへの入学を検討されている方に、レコールバンタンキャリアカレッジはオススメしていただけますか。はい、の場合理由を教えてください。
社会人が学ぶにはちょうど良いスクールだと思います。学費は安くはないので、そこは悩むかもしれませんが、経験としてはすごく良かったです。
今も、クラスメイトとは交流があり、沖縄「イタリアンバール ココラータ」渡邊満くんも同期です。彼はいちばん初めに開業し、東京に帰ったときに「伊酒屋 ばじりこ」に、来てくれました。
同じ志を持って入学し、卒業してからも仲間がいるのは、お店をやろうと思ったときに助けになります。
渡邊くんが先に開業していたので、相談に乗ってもらったり分からないことを聞けたりました。仲間がいると、精神的にも助けになります。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジへの入学を検討されている方に、ぜひ前向きなメッセージをお願いします!
飲食業でやりたいと思うなら基本的なことを学んでおいたほうがいいです。自分だけの知識でなんとかしようというよりも、学ぶことで開業の近道になると思います。
仕事を辞めずに、基本的なことを最短で学ぶにはレコールバンタンキャリアカレッジは適していると思います。
仕事を辞めてしまうと後戻りができないから、通いながら判断してもいいと思います。
私みたいに学び終えてから、副業で週何回かバイトして、ということも可能ですし、やってみたらいいと思います!
【SHOP INFO】
伊酒屋 ばじりこ
〒130-0002 東京都墨田区業平2丁目-9-10
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