<卒業生インタビュー>「13 COFFEE ROASTERS」「SHIKISHIMA COFFEE FACTORY」 オーナー櫻井 喜明さん
ウィズコロナの時代。
外食産業を担う卒業生たちは、今どのような心持ちでビジネスをしているのでしょうか?
最前線で活躍されている卒業生にヒントをもらうべく、群馬県・前橋にて「13 COFFEE ROASTERS」、スペシャルティコーヒー焙煎所兼スタンド「SHIKISHIMA COFFEE FACTORY」を経営するオーナー櫻井 喜明さんにインタビューを行いました。さらに、2022年秋には「SHIKISHIMA COFFEE STAND」をオープン予定です。
<在校中について>
―――― レコールバンタンキャリアカレッジでのコース名、卒業年次を教えてください。
カフェオーナーコース(現:飲食店開業コース)に1年間通いました。2016年3月卒です。
―――― クラスは何名くらいでしたか。また、スケジュールは?
20名くらいでした。週1回、日曜日に授業がありました。
―――― 入学時はおいくつでしたか。
37歳です。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジに入学された経緯を教えてください。
本業は、広告制作業なのですが、飲食開業に関するノウハウはない状態でフードビジネスを始めるのは良くないだろうなと思っていました。
20代で、憧れだった「フォトレタッチャー」という職業にチャレンジし、35歳で独立しました。本業では一人前になったので、念願だったカフェオーナーをやってみようと、レコールバンタンキャリアカレッジの門を叩きました。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジを選ばれた理由は?
バンタングループは、広告業界にも出身者が多いですし、かなり前から知っていました。他のスクールも調べたのですが、私が学びたかったカフェ経営についてもカリキュラムに含まれていて、場所も恵比寿だったので通いやすかったところに惹かれました。
―――― 学びたい、身につけたい目標は何でしたか?
コーヒーロースターを開業することは既に決まっていたので、コーヒーに対する知識と技術、経営に関する知識、開業に向けてのノウハウなどを学びたいと考えていました。
―――― 印象的だった講師、授業はありますか。
講師陣がトップクラスの方ばかりだったので全て印象に残っていますが、特にバリスタ篠崎講師、飲料専門家・江沢講師、経営・宮崎講師の授業は刺激的でした。
篠崎講師は、レジェンドのような存在ですし、江沢講師の飲料に関する知識が豊富で感銘を受けました。原価率が比較的低く、高価格で提供できる「コーディアル」などのドリンクメニューを学びました。ウチのスタッフには、今でもコーディアルの話をするくらい印象に残っています。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジでの学びが、「今のビジネス」に活かされていると感じることは?
宮崎講師の経営の講義では「ABC分析」を学びました。また、「ロスを出さずに、いかに利益を生み出すか」といった点を教えていただきました。宮崎講師は料理人でもあるので、現場のオペレーションにも精通しています。授業を受けて、美味しいものを作れば売れるという単純な話ではなく、「美味しいものを作ること」と、「美味しそうに見せて売る」ことは違う話だなと実感しました。
―――― 印象的だったイベント、販売実習などはありますか。
卒業制作展のときに、ハンバーガーショップを企画から運営まで行いました。
「ワールドバーガー」というコンセプトで、アメリカやイタリアなど、各国のバーガーで世界一周しようというお店です。私は、店頭ポスターの制作をしたり、独自ドメインを取得したりして、開店に期待感をもたせるような広告全般のディレクションを行いました。
当日は、お客さまに出すのが初めてでドタバタでしたね。
注文が混み合うと「何分以内に出さないといけない」といった焦りから無理が生じてしまったこともあります。飲食店には、オーダーの司令塔である「デシャップ」という役職があるのですが、お客さまの状況を厨房に的確に伝える人の役割が、いかに重要かが分かりました。一回運営しただけですが、その大変さが分かったので良かったです。
―――― 在学中、アルバイトなどで飲食業界の経験をされていましたか?
飲食アルバイトは全くしていません。今、経営者になってみて、雇用形態や休憩の取り方など、労働基準法に関わるところを、アルバイトとしてでも体験しておけば良かったと感じます。もしもこれから開業される人がいたら、一度は経験されておいたほうがいいと思います。
<卒業後について>
―――― 開業された経緯を教えてください。
「13 COFFEE ROASTERS」は、2017年8月の開業です。
バリスタの友人と一緒に運営していて、彼がメインで接客をし、僕はオーナーワークを行っています。卒業生の中でも、オーナーワークに専念するのは、比較的レアケースなのではないかと思います。
―――― 開業された時期、場所、店名、コンセプトなど、こだわりを教えてください。
<店名・コンセプト>
「13 COFFEE ROASTERS」
1日は12時間が2回、1年は12ヶ月。毎日が「12」という単位を基準に動いていますが、そんな日常に「1」を足すことで、いつもよりちょっといい1日を過ごしていただきたい。そんな日常に「寄り添う」コーヒースタンドです。毎日飲んでも、飲み飽きない味を目指しています。
<場所>
群馬県・前橋市です。物件は、知り合いのもので、ご縁がありました。
<デザイン>
ロゴは、前橋の古くからの友人に作ってもらい、建築デザインも群馬の建築家に依頼しました。小さな一軒家ですが、その中でコーヒーを「管理」「焙煎」「抽出」「提供」と一貫して行えるように機能を凝縮した内装になっています。
ロゴデザインも、建築デザインも本業に近しく、お店のブランディングに関して身近に聞けるプロフェッショナルがいたことは、13 COFFEE ROASTERSにとって強みになったと思います。
カフェのデザインや文化が好きで、休日にもカフェを巡ったりもしますので、趣味も活かされたように思います。
<客層>
最初は、30代女性をメインターゲットにしようと考えていました。なので、内装も女性向けのクリーンなイメージで、白を基調としました。
大手コーヒーチェーンでは満足できない層で、100円、200円プラスで払っても、美味しくていいものを飲みたい、知識欲を満たしたいという人を想定していました。一般的に、スペシャリティコーヒーは単価が高く500~600円はします。ある意味で、お昼ご飯の価格帯じゃないですか。それでも、選んでいただけるような提案を心がけています。
SNSフォロワーの男女比は、女性6:男性4 ですが、実際のお客さまは女性4:男性6の印象です。また、高校生から、お年を召した方まで幅広い層の方にお越しいただいています。
―――― 新型コロナウィルスの流行で、変化はありましたか。
13 COFFEE ROASTERSは、2020年の流行を機に、売り上げが上がりました。それまで、外でコーヒーを飲んでいた人が家で飲むようになり、ECでのコーヒー豆販売が好調になり、13 COFFEE ROASTERSの焙煎機では間に合わなくなりました。また、融資も受けやすくなったので、チャンスだと思い2店舗目となる「SHIKISHIMA COFFEE FACTORY」をオープンさせることにしました。
物件を見つけたのは2020年5月、同年11月オープンで、コロナ禍ど真ん中でしたね。
SHIKISHIMA COFFEE FACTORYには、工房を併設し作業できるスペースを確保しました。また、コーヒーバッグなどのプロダクトを作り、EC向け商品の焙煎もできるようにしています。店舗の裏に倉庫があり、コーヒー生豆がストックできるようになっています。
―――― 1店舗目の「13 COFFEE ROASTERS」と2店舗目である「SHIKISHIMA COFFEE FACTORY」では、コンセプトを変えましたか?
13 COFFEE ROASTERSは、白を使ったカジュアルな内装で、日常に寄り添うことをコンセプトしていますが、なかにはそれでは物足りないお客さまもいます。SHIKISHIMA COFFEE FACTORYのイメージカラーはブラックとし、最先端かつ玄人好みと、個性を明確に分けています。
13 COFFEE ROASTERSは、ハンドドリップでの提供ですが、SHIKISHIMA COFFEE FACTORYは、ビームサイフォンで抽出を行っています。また、同じ豆でも精製方法が異なるものをそれぞれのお店でお出しして、お客さまにコーヒーの奥深さを楽しんで頂けるような取り組みも行っています。表現方法を変えることは、2店舗だからできること。お客さまの中には、両方に通ってくださっている人もいます。
―――― 他に、新型コロナウィルスの流行をキッカケに動かれたことは?
2020年5月に、キッチンカーを導入しました。今は、少しずつイベントも復活してきたので、埼玉で行われたアウトドアイベントや、地元のサッカーイベントなどに出店しています。本格的なエスプレッソマシーンを搭載しているので、お客さまからも好評です。
―――― 豆の仕入れはどのようにされていますか?
商社さんから仕入れることが多いです。あとは、コーヒー農家さんとロースターのダイレクトトレードを手伝うベンチャーサービス「TYPICA」さんにお願いすることもあります。試飲の際にZOOMで現地の農家さんと繋いでくれて、コミュニケーションが取れることもあります。
―――― 焙煎機は?
13 COFFEE ROASTERSは、「GIESEN」を使っています。蓄熱性に優れていて、様々なアプローチで焙煎が出来ます。SHIKISHIMA COFFEE FACTORYは、「DIEDRICH」を使っています。純粋にこのメーカーが好きなことに加えて、世界大会にも使われていた信頼度の高い焙煎機です。焙煎機は、中古もほとんど出回らないですし、特に初期投資が追いつかない部分だと思います。ある程度、カフェが軌道に乗ってから、購入されるお店が多いようです。または、クラウドファンディングで購入する方法や、1店舗目は国産のものを購入し資金を貯めてから2店舗出店時に買い足す方法もあります。
―――― 特にオススメのメニューについて教えてください。
13 COFFEE ROASTERSでは、夏はコーヒーゼリーフラッペ(650円)が売れます。エスプレッソと氷をミキサーにかけたものと、スペシャリティコーヒーで作った自家製ゼリーを楽しめるドリンクです。コーヒーの風味を楽しめる大人のフラッペですが、幅広い年齢層の顧客に楽しんでいただいています。
SHIKISHIMA COFFEE FACTORYでは、月に1~2度、シグニチャードリンク(600円~650円)をお出ししています。バリスタが提案するオリジナルドリンクで、これを楽しみにしていただいている方も多く、定着してきました。カフェラテなどの定番も好評ですが、新しい体験ができ、コーヒー全般を「面白い」と思ってもらえるキッカケになれば、と期待しています。
―――― 「値付け」はどのように行われていますか。販売価格の付け方など、コツがありましたら教えてください。
レコールバンタンキャリアカレッジでは、原価率の基本は30%程度と教えてもらいました。残りの70%が土地代なのか、人件費なのかは、お店によってバラつきがあると思います。
コーヒー豆の場合は、同じ銘柄を使っているお店を探し、地域と全国とで調べて平均値を取ることもあります。
―――― 開業されて経験された、ご苦労についてお聞かせください。
B to Bの業界は、まつたく経験がありませんでした。小売業という業態も初めてだったので、仕入れ、消費税の付け方などすべてにおいてノウハウがなく、特に1店舗目は苦労しました。
現在は、3店舗を展開しているので、知見も蓄積されていきました。お店を作っていく過程で、ある程度見えてくるものだと思います。
―――― 小売業の経験がないという大変さは、どのように乗り越えたのでしょうか?
経験豊かなスタッフに聞きました。都内の有名店で働いていたバリスタに質問し、僕がメモを取ることもありました。なので、1店舗目のときは、「えらいこっちゃ」でした。例えば、人件費を適切に算出できていなかったり、高い商社から買っていても気付かなかったりしました。数年間経営してようやく適正な費用、価格が分かってきましたが、それは、毎月売り上げを分析し、コツコツと修正を積み重ねてきた結果です。
―――― なるほど。櫻井さんが、仕事の拠点を東京にされている理由は?
最近では、有難いことに「うちのお店のコーヒーのプロデュースしてほしい」といったご依頼をいただくことが増えてきました。群馬と東京の両方に拠点を持つことで、すぐに動けますし、最近になって東京に拠点を持つことが、プラスに働いているなという印象です。例えば、佐藤宇宙講師がプロデュースするイベントに、ウチの豆を使っていただいたり、レコールバンタン主催「NEXT BARISTA GRAND PRIX」では、豆をスポンサードさせていただいたりしました。卒業後も、講師の方たちからのお声がけを頂くこともあり非常に有難いです。
―――― 3店舗目の出店に至った、経緯を教えてください。
3店舗は、FM局、前橋市が後援する施設に出店のご依頼をいただきました。施設の半分はオフィスで、毎日100名前後のお客さまが見込めます。前橋市が地方創生のために掲げる「前橋アーバンデザイン」の一環となる施設となります。3店舗目となるSHIKISHIMA COFFEE STANDでは、会議用の定額ポットサービスなど、今までとは違うサービスを提供しようと構想を練っています。
―――― 飲食ビジネスの面白さ、喜びについて教えてください。
B to Bの仕事では、カスタマーと顔を合わせることはまずありません。その点、飲食ビジネスでは、目の前のお客さまからダイレクトに反応をいただけるのが醍醐味です。
東京の広告制作の事務所に、カウンターを作ったんです。僕がコーヒーを淹れるとカフェ空間みたいになりますし、リフレッシュできて自然と空気もギスギスしません。どんなオフィスにもカフェが必要なのではないかと、個人的には思っています。
―――― 大変さはどのようなところでしょうか。
二つあります。まずは、人員のマネ―ジメントです。スタッフが増えているので、僕がいなくても回るようなシステムを構築すること。
もう一つは、人材育成です。福利厚生の一貫として、競技会、ワークショップに参加する費用を負担しています。また、競技会やワークショップに参加したら、他の従業員に向けて、レポートを共有しなさいと伝えています。コーヒー業界全体の底上げになりますし、そういう取り組みをしていると、それを見た成長意欲が高い人が入社してくれることも期待できます。
お店では、スタッフ一人が減ること=サービス減になってしまうので、スタッフマネジメントには特に注力しています。定期的に勉強会も開くようにしていて、スタッフの学ぶ意欲を上げるような取り組みを定期的に行っていきたいと考えています。
―――― 現在のスタッフ数は?
僕を含めなければ6名~7名です。
―――― 飲食業界で活躍するうえで必要なスキルは?
視野の広さ、目的意識の高さは大事です。
スキルは日本一のレベルではないと、正直特別なものではないと思います。逆に言えば、もともとスキルを持っているからこそ、飲食業界で開業しようと考えているのだろうと思います。スキルだけでは、お客さまは来ません。ビジネスの視点が必要です。バリスタは花形の職業ですが、商売という土壌に立っていることを忘れないでください。技術者であり、アーティストであり、ビジネスマンであると分かっていることが、非常に大事です。その意識を持ってるかどうかで、日々どのような情報を見るかも変わってくると思います。
オーナー櫻井 喜明さん
―――― 今後の目標は?
ビジネスとしては、卸のECサイトに力を入れていきたいです。
また、地方創生にも興味がありますし、コーヒーを媒体として地方活性化にも貢献できたら嬉しいです。ゆくゆくは、お店を分社化し、スタッフに意思決定を任せていけるようになれば、オーナーとして新しいチャレンジも続けられるのではないかと思っています。
―――― 入学を検討されている方に、レコールバンタンキャリアカレッジをオススメしていただけますか。はいの場合、理由を教えてください。
オススメします。僕は一年だけ通いましたが、もしもレコールバンタンキャリアカレッジに通っていなかったら、閉店していたのではないかと思います。
一日集中して授業を受け、スクールが終わった後に会社に戻って仕事をしたりしていたので、当時はクタクタでした。辛かったですが、その分とても濃い一年でした。
あとは、立地も良かったです。恵比寿・中目黒には、日本国内トップレベルの飲食店が軒を連ねるエリア。一歩外に出て、すぐにお店に食べ歩きに行けます。私も、学校が終わった後に、クラスメイトとご飯を食べに行っていました。同期は大事です。飲食が志している人と知り合えて、意見を交わせるのも貴重な経験でしたし、開業しているメンバーや、飲食に関わっている同級生に相談することもあります。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジへの入学を検討されている方に、ぜひ前向きなメッセージをお願いします!
最初のオリエンテーションで伝えられたのは「ようこそ、頑張りましょう!」というメッセージではなく、個人飲食店の廃業率の高さでした。開業して10年後も残る飲食店は10%程度と伝えられて「これからの1年は、10%として生き残るための1年です。辛いと思いますが頑張ってください」というエールでした。
レコールバンタンキャリアカレッジは、厳しい現実を伝えたうえで、チャレンジのためのサポートをしてくれます。卒業後2年間は様々な支援を継続してくれますし、僕は卒業して5年経ちましたが今でも講師の方々に個人的にお世話になっています。佐藤講師のイベントに弊社の豆を使ってもらったり、「SCAJ」のイベントで講師陣に再会できたりするのは、レコールバンタンキャリアカレッジに在籍していたからこそ。10年ほどかけて得られるような知識や、横の繋がりを、短時間で身に付けられたことは非常に大きいです。
入学を検討されている方の中には、「キャリアを失いたくない」という人もいると思います。個人的には、両方をやるという選択肢もあると思います。社会人で開業されるなら、これまでやってきたことを武器にして、経験値で勝負していくことも大切だと思います。
スクールを信用して、ぜひ頑張ってみてください。
<13 COFFEE ROASTERS>
SPECIALTY COFFEE STAND AND ROASTERY.
<SHIKISHIMA COFFEE FACTORY>
SPECIALTY COFFEE ROASTERY, AND LABORATORY.
<SHIKISHIMA COFFEE STAND>
Coming 2022 Fall.