「ウィズコロナ」の時代。
外食産業を担う卒業生たちは、今どのような心持ちでビジネスをしているのでしょうか?
最前線で活躍されている卒業生にヒントをもらうべく、「クリスベーカリー」オーナー木内雄介さんにインタビューを行いました。
<在校中について>
―――― レコールバンタンキャリアカレッジでのコース名、卒業年次をお教えください。
「ブランジェリーコースに1年間通っていました。入学したのは、2011年10月からです」
―――― クラスは何名くらいでしたか。またスケジュール(週2日など)もお教えください。
「1班6名で、合計36名くらいだったと思います。週1回、日曜日の朝9時から5時まで授業がありました」
―――― レコールバンタンキャリアカレッジ東京校を選ばれた理由を教えてください。
『社会人で、週末に学べる』スクールを何校か調べていました。パン教室も選択肢にありました。学ぶからには本格的な知識や技術を学びたかったのでそれが叶いそうな学校、そして学費や会社勤めしながら無理なく通える場所、カリキュラムなど総合的に判断しました。レコールバンタンキャリアカレッジは特に校内の雰囲気が良く、パンフレットに掲載されている卒業生の言葉も私自身の希望に近かったので選びました。
―――― 学びたい、身につけたい目標は何でしたか?
「パンがどうやって作られるかさえも知らないまま入学したので、当たり前なのですがパン作りに関することすべてを身につけることが目標でした。
ベーカリーをオープンしたのも、周りにたまたまパン好きな人が多くて、なりゆきの部分が大きかったのですが、学ぶうちにどんどん面白さを感じるようになりましたね」
―――― 印象的だった講師、授業は?
「木村元(はじめ)講師、平野雅樹講師。木村先生は生徒の知識や技術をこのレベルまで引き上げるという明確なゴールを持っていて、そこに達成しているかどうかを常に見てくださり、的確なアドバイスをくださる先生でした。楽観主義でたまに抜けてしまう自分にとっては常に軌道修正をかけてくださるので今となってはとても感謝しています。あの当時はちょっと怖いと感じていましたが(笑)。
対して平野講師はお兄さん的な感じで、フレンドリーでしたね。いわゆる『師匠』のような厳しいスタンスではなくて、失敗やうまくいかないことがあっても一緒にどうしてこうなったかを考えてくださり、質問もしやすい雰囲気づくりをしてくださいました。卒業後も講師の方々には質問させていただいり、交流させていただいていたので、そうしたところも心強かったです」
―――― レコールバンタンキャリアカレッジでの学びが「実践的だった」「今のビジネスに活かされている」と感じることはありますか?
「実は……僕は補講組で。授業では、数カ月に1回筆記試験と実技試験があるのですが、ある基準に満たないと補講を受ける仕組みでした。(※当時のシステムです)私は実技試験の成績が毎回悪かったので毎回補講を受けていました(笑)。それでも授業で焼くパンは綺麗に仕上げることができたのでパン作りを楽しんで学ぶことができました。その経験があるので、仕事ではパン作りに失敗したスタッフを叱ることはほとんどありません。自分の方がもっと酷かったので。ですので職場は未経験の人を積極的に採用して育てていくという風習が根付きました。
レコールバンタンキャリアカレッジで得られたものは、知識もそうですが何よりも人間関係ですよね。同級生の繋がり、講師の方々との繋がりは、開業時はとても役に立つし助けられます。
僕自身は、パンがうまく焼けない時に、講師にメッセンジャーで質問してアドバイスをいただき、問題が解決しました。同級生とは、卒業した後も飲みにいったり、誰かが開業したらお店に行ったりして刺激を受け合う関係です。ウチのスタッフにも『知識は後からいくらでもついてくるから、人間関係を絶対に大事にしなさい』と伝えています」
<開業について>
2016年6月に、府中店に1号店をオープン、2018年4月には、東急百貨店吉祥寺店3階に2号店をオープンしました。
―――― 開業された経緯をお教えください。
「卒業して5年くらいはシステムエンジニアをやりながら、月1のペースでパン教室を開いていました。市が運営しているキッチン施設を借りて、趣味でパン教室をしていました。『ストレス発散』といったキーワードで教室を告知すると、一定のお客さんが通ってくれていましたね。
ある時、NGOのAAR Japanさんの国際支援イベントでパンを教えることになりました。得た収益を、世界の緊急支援、地雷対策を必要としている国に寄付するという活動に携わりました。そういう活動を通じて、パン作りが『人の心を元気にする』と目の当たりにしました。また、僕自身10年間悩み電話相談の活動をしているのですが、相談される方の声に耳を傾けていると、『食べ物は体だけでなく心の形成にも大きく影響しているのはないか?もしそうなら
体に安全なものをつかった飲食店をしたい』という想いが日に日に強くなりました。メンタルケアとしてのパンに興味が湧いていきました。そこで、お店を持つ方が説得力と信用力があると思い、開業を決意しました。2015年末にそれまで勤めていたシステムエンジニアの会社を辞めて、2016年1月から店舗の物件を探し始めました」
―――― 場所、店名、コンセプトについてのこだわりを教えてください。
「初期投資が少なくて済み、パン屋に改装しやすい飲食店の居抜き物件に絞って探しました。飲食店.comというサイトを通じて府中に丁度譲渡先を探しているパン屋を見つけました。そこが1号店となりました。
クリスというのは、僕のあだ名です。目の色素が薄いこともあって、ニックネームで『クリス』と呼ばれることがあって。しかも、そのあだ名で呼ばれるようになってから不思議と良いことが舞い込んだので『ラッキーネーム』だなと感じていたのもありますね。音の響きもいいので、クリスベーカリーにしました。
コンセプトは、『想いを込めて、健康的な素材を選ぶ』こと。パンの材料はどこのパン屋も1つか2つはこだわってそこを全面にアピールして、それ以外はできるだけ安い材料を使いバランスを取っているところが多いのですが、私のこだわりが強すぎてすべての材料にこだわるようになってしまい塩ひとつとっても自分なりの想いを込めて選んだ材料を使っています。
安いから選んでいるものは一個もありません。なので、入手しにくい材料であったり、材料費が高騰しやすいこともあり大変です(笑)
また、健康情報も日々変化するので、その時に健康にいいと言われるものを判断しながら選んでいます。例えば、「体に良い」の代名詞的存在で多くのお店が取り入れている糖材料があるのですが当店でも最初その材料を使用していました。その後調べてみると虫がつきやすく大量の農薬を散布しないと作れない農作物から作った糖材料だったので、もちろん国の農薬の基準はクリアしているのですが個人的にちょっと疑問を抱いてしまって今ではちょっと価格が高いのですが別の糖材料を使っています。
レシピは常にアップデートし続けています。
僕自身も大病を患い、体と食べものは密接に関係しているのだなと実感したこともコンセプトに反映されていると思います。グルテンフリーの流行りなどでパンは食べ過ぎるとあまり体に良くないと言われることもありますがそれでも好きで食べたいという人はたくさんいます。なので、健康に気を遣う人でも楽しめるような、そういった方々が安心して食べられるようなパンを提供する、そんな存在になりたいと思っています」
」
―――― 特にオススメのメニューについて教えてください。
「看板メニューは、291回、レシピや焼き時間などを試行錯誤して作った食パンです。お店の正式名称は、『食パンのお店 クリスベーカリー』なので、ウチを代表するようなパンですね。作り方にもとてもこだわっていて、パン作り未経験からスタートした人でも2カ月くらいで私と同じレベルの品質を作れるように製造工程をシンプルでわかりやすくしています。
お店で作るうえで、『誰でも作れる』というのはとても大事。
個人的にもっと知って欲しいパンは、『ふすまの食パン』(1.5斤540円)小麦の殻である『ふすま』が練りこまれたパンです。低糖質なので、もっともっと多くの人に召し上がってほしいですね。
オープン時は、食パン専門店として営業をしていたのですが、お客様の要望や地域が必要としていることを踏まえ、少しずつ菓子・総菜パンを増やしています。普通のパン屋と比較するとメニュー数は半分程度なのですがお客様の需要に応えることを意識するだけで売り上げも安定してきました。
後発の食パン専門店がたくさんオープンしていますがそことの差別化もできており、吉祥寺のお店の周りには知名度のある食パン専門店が4店ありますが影響はほぼありません。
商品開発は、ほとんど私がおこなっていますが、常時1~2品はスタッフが考えたメニュがあります。開発方法は、お客さまが主体。まず、お客様が求めているパンを明確にします。これはアンケートを取ったりお客様との日常会話の中からヒント得たり。例えば、それがクリームパンだったとしたら、当店
では特別な卵を使ったり、ウインナーの総菜パンなら添加物が少なくハーブが入っているものを選んだり、ワンランク上の素材を使います。業者が持ってきてくれる材料も、すべて成分をチェックしています。ショートニング、マーガリン、油脂が使われていないか。あとは、カタカナ表記、英語表記で『これは何?』と疑問に思うようなものが、極力入っていないものを使います」
―――― 開業されて経験されたご苦労についてお聞かせください。
「パン屋での勤務経験がないので、効率の良い材料管理の方法はどれがいいかな、作業性をもっと向上させるにはどうしたらよいかなどに没頭してしまったせいか、明確な売上目標を立てずにスタートしてしまったことでオープンして2カ月くらいは地獄の日々でした(笑)
具体的には『生活するために、どのくらい売上げを出さなくてはいけないのか』このことを決めていませんでした。そこまで細かく考えず、勢いで『えいやー』とスタートしてしまい、商品開発にばかり時間を割いていましたね。結果、長時間労働になってしまった。一緒に働いていた人も体を壊して退職してしまったり、当時の自分も、体力の限界まで頑張ってしまっていました。売れ残ったパンを廃棄にしたくないから営業時間が過ぎても来るかどうかも分からないお客さまを待ち続けてしまったりする。スタッフも雇っては辞めての繰り返しで……知らず知らずのうちに我慢比べ状態に。
売上目標を立てて、その目標を達成する為に必要なことを紙に書きだして数字化し、それをスタッフと共有する。そしてその決めた行動や数字から外れていることに対してのみスタッフに注意する、それ以外は応援する。こういうことが大切だと気付きました。そこに気づくまではちょっとしたことでいちいち指摘してばかりで、口うるさい人になっていました(笑)常にスタッフの行動を気にしないといけないので経営者としての仕事は進まず、スタッフからは嫌われ、スタッフの退職が相次ぎ、結果的にさらに自分への負荷が高まる。もう悪循環でしたね。
今は、経験がない人でも、『パン屋を開く』夢を叶えられるカリキュラムを構築しました。未経験でも、二ヵ月もあればパンが作れるようになります。僕自身も、在学中は成績が悪かったけれど、こうして店を経営できています。『夢を諦めた方も、夢を叶えられる環境を提供すること』を大切にしています。
実際に府中店は未経験からスタートした40代後半の女性が半年後に店長という立場になっています。『任せて欲しい。その為に必要なことはすべて覚えるので教えてください。』と言われたからです。「○○したい」という希望を持った人にチャレンジできる環境を与えるのがオーナーの仕事だと思っているので。任せるのは正直私自身の覚悟も必要です。何があっても自分の責任だと思っているので。
―――― そのようなカリキュラムを提供する意味は?
『こんな私でさえできたのだから、夢は誰でも叶えられる』を伝えたいし、応援したいという気持ちからこういったカリキュラムを提供しています。私自身もそうでしたが、世の中結構夢を抱いたまままったく違う職業に就いてたり、何もその夢に繋がることをしていない人が多いですよね。少なくともパン屋を立ち上げたいという想いを持った人は全力で応援します。
―――― コロナウィルスの流行で、経営観は変わりましたか?
「コロナ禍になり、経営観は大きく変わりましたね。不思議と自分の生活はなんとかなると思っていましたが、これまで以上に、スタッフのことをよく考えるようになりました。
緊急事態宣言中、百貨店の中にある吉祥寺店は休業していました。休業期間でも毎月何十万円と諸経費がかかるのと、スタッフの収入がゼロになってしまうのは経営者としてやってはいけないことだと思い不眠不休でどうしたらよいか試行錯誤していました。
まずスタッフ全員に「クリスベーカリーの存続に全力を注ぎます。休みたい人は無理せず休んでください。力を貸してくれる人は是非連絡ください」と通達しました。そして連絡をくれたスタッフと面談をして『ウチで何がしたいのか?何をして欲しいか?』を確認しました。仕事が欲しいと言ったスタッフには仕事を用意する約束をしました。あまり外出したくない、電車に乗りたくない人には家の近くで働ける場所を提供することを約束しました。それからパンを販売させてもらえる場所を何個か探し出し、そこの売上と3月末にタイミングよくスタートしていた通販と府中店の売上でなんとか30名近くいる従業員の給料は支払えていました。緊急事態宣言中考えていたことはスタッフのことばかりでしたね。」
―――― 飲食ビジネスの面白さ、喜びについて教えてください。
「飲食ビジネスはお医者さんと同じだと思っています。お店で提供されたものを、お客さんはなんの疑いもなく召し上がりますよね?そこで変なものを提供してしまったらお客様の健康を損ねる要因となってします。スタッフには常に「我々はお客様の健康を支える役目を担っている」と伝えています。飲食業を軽視する人もいますが、僕自身はとても重要な仕事だと思っています。
もうひとつは、人の幸せに直結する仕事です。嬉しかったエピソードがあって。
高齢の奥様が「普段は主人とまったく会話がないのに朝食でクリスベーカリーさんのパンを出したら『このパン美味いな、これはどこのパンだ?』と数カ月ぶりにまともに会話をしたんです」と。それをきっかけに今ではよく会話をする仲になったそうです。パンを通して会話が生まれたと聞いて、美味しいものは『食欲を満たすだけではなく、人間関係をより良くするツールにもなる』と感じました」
―――― また、大変さはどのようなところでしょうか?
「飲食店、特にパン屋の大変さは固定費や人件費が高いところです。路面店はある程度自分自身のコントロール次第で上手にやれるのですが、百貨店などの商業施設内に出店している場合ですと営業時間も決められていて商業施設のルールに従わないといけない、そしてお客様の人数も多いのでそれだけ固定費、人件費が高くなります。コロナ禍や天候に大きく影響を受けて、じゃあうちは休みます、営業時間短くします、売れ残りを防ぐために製造数を著しく下げますといったことが自由にできないです。損を自分一人ですべて受け入れる覚悟が必要です。」
―――― 飲食業界で活躍するうえで必要なことはどのようなスキルだとお感じでしょうか?
「お客さまが欲しいと思う『価値』を提供できれば生き残れます。また、その価値が何か?に意識を向けられるスキル。売上げが低いときは、『自分はターゲットとなるお客さまに価値を提供できていないんだな』と素直に認められること。
商品が悪い、スタッフが悪い、サービスが悪いではなく『お客様がそれ(商品、サービス)を欲しいと思うかどうか』が大事です。
その価値は、何気ない会話の中にヒントがあったり、情報を更新し続けていれば、おのずと見えてきます。一人よがりで『こういうものを売りたい』と動くのではなく、世の中の需要を満たす商品を作れば、宣伝しなくても売れると思います」
―――― 最後に、レコールバンタンキャリアカレッジへの入学を検討されている方にぜひ前向きなメッセージをお願い致します!
「学校見学は絶対にしてくださいね。少しでも「ここいいな」と思ったら是非その直感に従ってください。技術を学びたければ学べるし、人脈も作りたければ作れます。自発的に動くことで何でも手に入る環境がレコールバンタンキャリアカレッジには備わっています。少しでも「いいな」と思ったらそれが答えです。パンのことを全く知らない私が入学して、今2店舗を経営し、30名近いスタッフを雇用できるまでになった、そのきっかけとなった学校です。私がもし別のスクールを選んでいたとしたら、今のような満足な状況は得られなかったと思います。夢を叶える為に、パン業界に足を踏み入れようとしているあなたを私は心から応援しています。」
食パンのお店 クリスベーカリー 府中本店
東京都府中市天神町3-16-2 パレススメールA1 1F
食パンのお店 クリスベーカリー 吉祥寺店
東京都武蔵野市吉祥寺本町2-3-1 東急吉祥寺店 3階
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