<卒業生インタビュー>「お茶とおやつ ヨウケル舎」オーナー 丸永洋子さん
「ウィズコロナ」の時代。
外食産業を担う卒業生たちは、今どのような心持ちでビジネスをしているのでしょうか?
最前線で活躍されている卒業生にヒントをもらうべく、「お茶とおやつ ヨウケル舎」オーナー丸永洋子さんにインタビューを行いました。
<在校中について>
―――― レコールバンタンキャリアカレッジでのコース名、卒業年次をお教えください。
2010年1月からブーランジェリーの半年コース(現:ベーカリーコース)を卒業しました。入学したのは、29歳になるかならないかくらいのときでした。初心者向けではなく、開業を目指す方に特化しているところに惹かれました。
―――― スケジュールも教えてください
週1回の授業でした。
―――― それまでのキャリアについて教えてください。
21歳から飲食業に携わっています。友人がお菓子の専門学校に通っていて就職したんです。そのお店に、調理系の専門学校出身でもなかったのですが、入ることができました。1店舗目はケーキやタルトのお店で、2店舗目はタルト専門店。そこでは「仕上げ」をしていました。3店舗目はフランスの伝統的な菓子を作るパティスリーで、仕上げ、仕込み、中核になるようなことを任されていました。出産があったので、ブランクもありますが……。
お菓子に関しては、働きながら技術を得ていきましたが、パンには一切携わっていなかったので本格的に学びたいと思いました。レコールバンタンキャリアカレッジ入学時には、開業を決めていて、勤めているお店にも報告していましたね。物件を見に行ったり、商品や屋号を考えたり具体的に動いていました。
―――― 開業する業態も決めていたのでしょうか?
そうですね。お菓子と食事を提供するカフェ、と決めていました。
ただし、食事の面において、技術が足りていないなと思っていました。お菓子だけでなく、自家製パンを作れるなど強みを増やしたかったんです。技術の高い商品を提供するため、自らの技術を補うことを優先したので、カフェオーナーコース(現:飲食店開業コース)ではなくブーランジェリーコース(現:ベーカリーコース)を選びました。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジ校を選ばれた理由を教えてください
検索して知りました。現場で働いている講師が教えてくれる、という点が良かったです。
―――― 学びたい、身につけたい目標は何でしたでしょうか
ベーグルを出したいと思っていたので、パンの基礎を学びたかったです。現場で働く講師ならではの「実用的な」技術が知りたかったんです。私自身も現場で働く人間だったので、「学校の先生」ではない技術は重視していました。
―――― 印象的だった講師、授業は?
木村講師、メグミ講師の授業。説明が分かりやすかったですね。念願だったベーグルは習いました。習ったレシピをベースに、自分なりに粉や配合などを変えて、試作を重ねていきました。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジでの学びが「実践的だった」「今のビジネス」に活かされていると感じることは?
卒業後も、パンを作って持っていき、講師の方々に食べてもらいました。授業料は決して安くないので元をとらないとダメだと思っていて(笑)とても頼っていましたね。何度もお呼びだてして、積極的に関わっていました。お店をやるというのは覚悟がいることなので。
<卒業後について>
―――― 開業までの経緯を教えてください。
2010年9月1日オープンです。
卒業後は、商品を考え、内装を考え、お店に置くテーブルや椅子を買い、ありとあらゆることをやりました。
物件は同年5月に契約しました。電気、ガス、水道の工事を依頼したり、友人と一緒に壁を塗ったり……忙しかったですね。
―――― お店のコンセプトは?
店舗名は、「お茶とおやつ ヨウケル舎」で、「日々のおやつ」を受け取って欲しいと思います。インスタ映えする「みんな見てー!」の、華美なお菓子ではなく、ふと思い出して「あれ食べたい」としみじみ思ってもらえるような、体がほっこりするような、お母さんが作るホットケーキのような存在でありたいと思っています。ブランド、ブランド、しているのは気質に合いません。確かな技術で、自分のテイストを出して商品が作りたかったんです。
スイーツじゃなくて「日々のおやつ」、ここはこだわりです。
もうひとつは、地域に根差したお店でありたいと思っています。その地域に根を張っていないと倒れやすいですし、そこに住む人たちと連携が取れるほうがいいと考えています。
<名前>
気を遣わず、気張らない感覚で、ホッとできる空間であるといい、という想いを込めています。ヨウケルは、実は私のあだ名でもあります。学生時代に、電子辞書にyoko と入力したら、近い単語で田舎者という意味のyokelが出てきたのがキッカケにあだ名になりました。
<デザイン>
ケーキのおうち、というイメージです。開業までに、好きなものをファイリングしていました。ネットで見かけたアンティークの食器、イメージに合うディスプレイなどを切り抜き、工事を担当する方にお伝えしました。なので、10年経ってもコンセプトはブレないですね。可視化しておくのがいいと思います。
<ロゴ>
知り合いのデザイナーにお願いしました。好きなフォントなども、開業前から集めていたのでスッと決まりました。
<場所>
開業当時、子どもが3年生か4年生でした。なので、娘が自分で来られる距離、なおかつ 私自身が生まれ育った場所にしました。物件探し中、西荻窪にも足をのばしていましたが、なかなか決まらなくて。行き詰まっていたときに今の物件に出合い、即決しました。当時住んでいた家からも、自転車で10分ほどの距離でした。
私の地元なので、地域の雰囲気も分かっています。広さは12.5坪と丁度良く、1階です。駅近にも関わらず面している道の雰囲気も落ち着いています。大通りではなく、そういうのもすべて良かったですね。こんなにすべての条件を満たすものは、なかなかないと思います。
<客層>
自分と同年代の女性ですね。消費に関していうと女性をターゲットにすれば、女性に伴って男性がいらっしゃってくれます。女性のお客さまは8割5分くらいで、常連さんの中には男性1名の方もいらっしゃいます。これは、お店を開けてみて意外だったことですね。
―――― 特にオススメのメニューについてお教えください。
<お食事>
ちょっと前だと、定食をやっていました。主食と一汁三菜と、月替わりのおかずを提供していましたが、キッチンの狭さなど色々な事情があり難しくなりました。
ベーグルサンドイッチのプレートは人気です。食事は開業当初から出したいと思っていました。野菜不足になりがちなので、極力野菜を多く使うようにしています。お菓子だけに振り切らずに、食事もあることで、お店としての汎用性が出るように思います。
<おやつ>
いちばん最初になくなるのはフルーツタルトですね。季節によって、フツールが変わります。今はマンゴーですが、桃、メロン、いちじくなどもあります。素朴ですが、キャロットケーキも静かな人気です。
―――― 数量としては、どれくらい仕込むのでしょうか?
生菓子なら、100ピースから120ピースくらい。焼き菓子は20種類ほどあります。1日に出勤する人数は、平均4名ほどで、ひとりないしふたりはずっと仕込みをしています。
キッチンが狭く、オーブンが小さいので、朝7時から夜7時まで仕込んでいますね。
オーブンが空かないときはありません。
―――― 開業されて経験されたご苦労についてお聞かせください。
接客を頑張りながら、技術のある作業が同時進行で求められること。例えば、メレンゲをたてているときに、お客さまから声をかけられて接客すると、メレンゲがボソボソになって全捨てしたことも。117℃で、素材を合わせなきゃいけないタイミングで呼ばれたり、混ぜ具合が思うようにいかなかったり。接客を疎かにせず、技術のある作業を同時進行で進めるのは慣れるまでとても苦労しました。
―――― 新型コロナウィルスの流行で、工夫された点、心がけていらっしゃることについて教えてください。
去年、始めて緊急事態宣言が発令されたときは緊張感があり、張り詰めていました。お客さまからもそういう空気が伝わってきましたね。カフェは自主的に閉めていたのですが、テイクアウトの需要はあるだろうと肌で感じていました。消毒を徹底して、持ち帰りに力を入れて営業していました。おかげさまでカフェを補うくらいの売り上げがありました。新型コロナウィルスの影響で、売上げが落ちたことはありません。より衛生面に気を付けること、営業スタイルを少し変え、雇用を維持しました。みんな生活がかかっていますから、売り上げはできるだけ減らさないように努力し、結果シフトを削るといったこととは無縁でした。
今、カフェは開けていますが席は間引いています。ウィルスを酸素にかえる機械を置いたり、人数制限をしたりして工夫しています。きっと、開業当時からの「地元のお客さまを大事にする」という信念も功を奏したのだと思います。
―――― 飲食ビジネスの面白さ、喜びについて教えてください。
小学生だったお客さまが、地方で初めて一人暮らしをして、その方にお菓子を送ってあげたり、お菓子の専門学校を出ていないスタッフでも、本当にいろんなことができるようになって、自分のブランドやお店をオープンした人がいたり。大学生が社会人になって貫禄が出てきたり、お腹にいた赤ちゃんが小学生になっていたり……、大切な人たちが成長していく様子を見守れるのは嬉しいです。
あとは、材料の仕入れを通して人と繋がれること。国産のレモン、オレンジ、きんかんを使っているんですが、以前は収穫のお手伝いにいって、苗木を植えたりもしました。ハチミツも国産で、養蜂をしている方から直接仕入れています。普段出会えないような人とお仕事ができることも喜びです。
―――― フードロスについても、積極的に発信されていますね。
そうですね。食べ物を残したり、粗末にするのがとても嫌で、Twitterとか、お手洗いに手紙を貼ってみたりして「考えるキッカケ」を提供するようにしています。美味しいものを食べてもらいたいということと並行して、第二の仕事としてフードロスをなくしていきたいです。先日、あるイベントでフェアトレードのカカオプードルとコーヒーを使った商品を販売しました。作って売るというだけではなく、その商品や原料がどこからきて、どんな人がどうやって生産しているのか、自身が消費するものに関心を持ってもらいたい。その役割を担っていきたいですね。私自身も、個人店にお金を落としたいし、丁寧に作られたものを選びたいと思っています。
―――― なるほど。では、飲食業の大変さはどのようなところでしょうか。
お店を続けるためには人を育てることが重要です。あとは、経営の頭が必要です。私は、10年働いている間に3回入院しました。大ごとでしたね。退院しても、すぐに仕事復帰できるわけではないので、丸二ヵ月仕事ができないときもありました。
職人さんは、言葉で伝えたりするのが苦手な人が多いと思うんです。多分に漏れず私もそうで、自分の中では製法を分かっているけれど、人に伝えられずにいました。3年目で、突然病気になって、お店がてんてこまいになってしまいました。赤字にはなりませんでしたが、大きなつまずきだったと感じます。どうにかこうにか力を絞り、守りましたが、そのときに「教えるのが苦手とか言ってる場合じゃない」と強く感じました。私がいなくてもお店が回るようにしなくてはいけない。そこから人を育てることの大事さを痛感し、今は人を育てる方向にシフトチェンジしています。自分の言葉も拙いし、思うようにお菓子ができず捨てることもありますが、だからといって教えないのでは企業の成長がありません。失敗しても根気強く繰り返していきました。
数年で、まる一日出勤しない日も作るようにしました。今、無茶な働き方はしていません。年を取ったら、できないことも増えていきますよね。なので引き継ぎをして「自分しかできないこと」を減らしてく。お店においては、正しく技術が伝われば、お客さまにも還元されます。なのでレシピを隠す理由はありません。正しい商品を作れる環境を整え、「自分が出勤しなくても」回るお店を作っていくことです。
―――― 飲食業界で活躍するうえで必要なスキルは?
大事なのはお客さまとの距離感だと思います。例えば、いつもコーヒーを飲まれる方なら「このコーヒーですよね」と一歩踏み込んで会話をします。お客さまも「自分を覚えてくれている」と思いますよね。
コンビニのような画一的な声掛けではなく、「温度がある接客」を大切にしたいです。健康志向の方なら、「氷は少なめがいいですか?」とうかがったり、「冷房が当たる席ですが別の席がいいですか」と声をかけたり。
そうすると、「自分のことを気にしてくれているのかな、また来てもいいかな」と思ってもらえるかもしれません。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジへの入学を検討されている方にぜひ前向きなメッセージをお願いします!
本格的な授業が多かったです。特に、商品である生地に触れられる機会が多いのが実践的で、今に活かされていると思います。
パンやケーキは、手で触れて感覚でしか覚えられない部分があると思います。これは、自分がスタッフに教えていても感じること。実際に作るからこそ分かること、得られることが多いです。
お茶とおやつ ヨウケル舎
東京都世田谷区経堂4-7-8
10時からお持ち帰り、11時30分から店内開店19時閉店
不定休