<卒業生インタビュー> enisi オーナーシェフ佐藤聖也さん
ウィズコロナの時代。外食産業を担う卒業生たちは、今どのような心持ちでビジネスをしているのでしょうか?
最前線で活躍されている卒業生にヒントをもらうべく、大阪府・枚方市にて、“日本のイタリア料理店”「enisi」を営むオーナーシェフ佐藤聖也さんにインタビューを行いました。
<在校中について>
―――― レコールバンタンキャリアカレッジでのコース名、卒業年次を教えてください。
レコールバンタン大阪校の2期生です。10数年前に、2年制のカフェ総合コースに入りました。
―――― クラスは何名くらいでしたか。スケジュールも教えてください。
20名くらいいました。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジを選ばれた理由を教えてください。
短大を卒業したのですが、20歳のときにやりたいことはサラリーマンではないなと思っていました。爺ちゃんが喫茶店をしていたので、高校生時代にアルバイトしていました。
でも、どうしても飲食でなくては、という強い意志があった訳ではなく、「料理が有力候補かな」と思いました。オムライスくらいは作れるようになりたかったです。
―――― 学びたい、身につけたい目標は何でしたか?
いや、ないです。短大を卒業していましたが、当時の本音としてはあまり社会人になりたくなかったです。
レコールバンタンに入ったら、学生期間も長く満喫できるし、興味があった飲食についても学べるんじゃないかと思っていました。
―――― 印象的だった講師、授業はありますか
講師はすごく良かったです。南講師というベーカリーの講師は、気に入ってくださいました。
助手の先生や、デザート・庄村講師は優しかったですし、お世話になりました。メープルシュガーを使ったロールケーキなど、どのレシピも美味しかったです。
―――― レコールバンタンでの学びが「実践的だった」、「今のビジネス」に活かされていると感じることは?
短大を卒業してからレコールバンタンに入学しました。料理の入り口として、スタートとして行けたのは良かったですし、学んだからこそ今があると思っています。
―――― 印象的だったイベント、販売実習などはありますか。
卒業実習はありました。お客さんが来て、料理を提供したと思います。自分が作った料理を、出せるというのは、今思えばままごとのようですが、初めての体験でした。
―――― 在学中、アルバイトなどで飲食業界の経験をされていましたか?
短大時代から居酒屋の調理のバイトをしていて、続けていました。応募した理由は、単純に時給が良かったですし、短大のときから続けていたからです。
―――― 卒業されてからのお仕事について教えてください。
1年目で、イタリアンレストランにインターンしていて、そのまま就職しました。
―――― なぜ、イタリアンを選ばれたのでしょうか。
消去法です。日本料理はイメージが怖かったし、フランス料理は調理技術が細かい印象がありました。真面目に「パスタを作れたらモテるな」という理由で選びました(笑)。
―――― 入社されてからは、どのようなお仕事を?
<第1章>
21歳で入り、洗い場に人手が足りず皿洗いから始めました。「働きたいです」と意思を伝え、就職することに。自分としては業界に入ったのは、遅かった、と感じています。
1年が終わり、実は職場から逃げてしまったことがあります。人生が面白くなかったんです。仕事から逃げて、フリーターでアルバイトしながら「このまま、しょうもうない人生で終わるんだろな」と思いました。そして、「何をしたらいいんやろ?」と考えたときに、やったらあかんことをやったからまずは謝りに行かんといけない。けじめをつけよう、と思って謝りにいきました。
すると、シェフから期せずして「戻ってくる?」と言われました。勢いで「はい」と言い、職場に復帰することになりました。
<第2章>
21歳の時よりは意欲がありました。まかないも任されて、「お前の作るもの、美味いな」とシェフに言われ、「俺の料理、美味しいんかな?」と思うように。
期待に応えたくてまかないのメニューを調べたり、前日に自分で試作をしてみたり、まかないを作るうちに「美味しい」が分かるようになっていきました。
20代後半にさしかかり、少しずつ自分の技術に自信を持てるようになってきました。
<第3章>
イタリアンレストランを辞めたときは30代で、決められたレシピではなく、「自分の料理」をやりたいと思いました。
自分で食材を選び考えないと、新しい料理は生み出す力も鈍ってしまいます。お店のものをお店のレシピで再現していたら、考える能力が落ちていくのではないかと。
自分が「長」になったら、必然的に生み出さないといけないですから。
そこで、一年ほど自分の料理の幅を広げたいのでフリーターをしていました。辞めたときから、「日本のイタリア料理店」をやりたいと思っていました。
知り合いの知り合いに、近しいコンセプトで営業している店があり、アルバイトで入ったのが「mane(モーネ)」。また、知り合いで、昼なら空いているから使っていいと言われ、昼は大阪・福島「マミーズきっちん」でパスタランチを提供し、夜はモーネで働きました。空いている時間は、エスニック料理でバイトしました。
忙しかったですが、責任なく自由に美味しいものを作れたので、楽しかったです。作っていないと、味を決める力が鈍っていくんです。
<第4章>
32歳で結婚することになり、就職せないかんなと、ワインのインポーターの飲食事業部で正社員になりました。エンターテイメント居酒屋で1年半ほど調理を務めました。
独立しようと決めていましたし、足りない部分は完全に分かっていて「数字管理」「店長業務」です。一切触れてこなかったので、独立前に店長業をやらせてもらえるところ、かつ大阪市内で探していました。高槻市にツテがあり、「燻製専門店 燻製ラヴァー フーモ fumo」へ。
―――― なぜ、イタリア料理店に転職しなかったのですか?
イタリア料理をもう一回やる気は、ありませんでした。違うことに身を置くことで、自分でも調べるので、違う環境になればなるほど成長すると思いました。
レコールバンタンで学んでいたのも、そういう環境に身を置かないとサボって成長せぇへんと思ったから。
店舗展開もやりたいと思っていて、新店舗の立ち上げをやらせてもらったのが「くしや 鳥時々」です。1年働き、自分が作ったレシピをガッツリ置いてきました。
料理も美味しいですし、いい空間にできたと自分で思います。
<卒業後について>
―――― 開業された経緯を教えてください。
2022年4月、37歳のときに地元である大阪府・枚方にオープンしました。枚方って、他のエリアと比較したときに美味しいお店が少なく、相対的に食のレベルが高くないと感じています。地元の人たちに美味しいものを知ってほしいと思い、自分の経験を活かして、枚方にはないスタイルでやろうと思いました。大阪市内、京都市内には一斉スタートの飲食店はあっても、枚方には一店舗もありませんでした。「行ってみようか」と重い腰を上げたときに、食の豊かさが広がるんちゃうかなと思っています。
<提供スタイル>
開業するときに、一斉スタートにするか、別々に提供するかは悩みました。バラバラにすると、お待たせしたり、クオリティが落ちたり、提供回数も増えたりと不具合がでてきます。
一斉スタートだと集客が大変ではないかと予想していましたが、バタバタしてクオリティが落ちるよりも、満足して帰ってもらいたいと思い決めました。
―――― 開業された時期、場所、店名、コンセプトなど、こだわりを教えてください。
<物件>
駅から徒歩5分圏内、カウンターで10席前後が入る坪数、路面店で探していました。当時、飲食店を持っているだけで補助金がいっぱい出ていたので、手離すオーナーがおらず、空きが出ませんでした。大阪市内、京都市内から来てもらうことも大切なので、電車移動で来たお客さまにとっては、徒歩5分圏内なら歩いてくれるかなと。
<コンセプト>
日本の調味料・食材を使ったイタリアン料理です。
自分自身も37年の培った食経験があるように、お客さんの細胞に刻み込まれているのは日々の食事です。
毎日の中で一回くらいは、おだしを飲むと思いますし、細胞に刻まれた美味しさは必要だなと思いました。日本人にしか向けていないので、もちろんミシュランの星が取れたら嬉しいですけれど、世界を目指すようには向いていません。それよりも、お醤油やいちばんだしの味がして、親しみが持ててほっこりできるほうがいい。
「ホッ」とする、「ほっこり」できて安心できる、そういう気持ちに寄り添えるイタリアンです。なので、一品目から緊張せず召し上がってもらえるように計算しています。
<店名>
enisiは、「縁」という意味です。ご縁なくしては、お店ができないのでいろんなご縁が集まるお店になればという想いを込めています。
<内装>
「くしや 鳥時々」を設計した人にお願いしました。「くしや 鳥時々」社長の同級生ということで、ディスカウントして施工してくれました。カウンターのテーブルは、ヨーロッパか南米の木にしようと思っていましたが、木材屋さんが最後に「これも見て」と持ってきたのが、現在テーブルで使っている木です。めちゃくちゃ格好良くて即決しました。日本の木で食べる、日本のイタリアンです。
<客層>
30代後半の女性です。口コミを広げてくれるのは女性だと思っています。男性は、美味しくても広げてはくださらないので。連れて来られて「美味しかった」と感じてくだされば、また行こうとなりますよね。ちょっと余裕があって、ゆったりしたお客さまが来てくださっています。
―――― 特に売れ筋のメニューについて教えてください。
昼は5品、夜は10品です。月替わりです。定番メニューが一つあって、「鯛の瞬間昆布締めとモッツァレラ」は、口に入れた瞬間に「美味しい」と言われる方が多いです。見た目だけでなく、味わいにもこだわっています。おぼろ昆布、醤油麴を使っているので、なじみのある味わいです。
脳まで伝達していなくても、自分の祖先から受け継がれてきた食の記憶で、「細胞から美味しい」と感じることはあると思います。体に届く、感覚的に美味しいと思ってもらえる料理です。
―――― 「値付け」はどのように行われていますか。販売価格の付け方など、コツがありましたら教えてください。
開業時は、昼4000円、夜9000円でスタートしました。出したい料理がいっぱいありますが、もう少し安くせなあかんのかな?という想いもありました。
2022年10月から物価高騰に合わせて昼5000円、夜1万円にしました。(全て税別)
―――― 開業されて経験されたご苦労についてお聞かせください。
お金の部分です。これまでは給料制だったので、こんなに悩むことがあるんや、と独立して思います。
―――― 飲食ビジネスの面白さ、喜びは、どのような時に感じられますか。
お客さんが最後に「楽しかった」と言ってくれること、それが全てです。美味しいの先に、楽しいがあると思います。
「また来るわ」と言われて、再来店してくれたときは「本当にそう思ってくれていたんだ」と思えます。
―――― 飲食業界で活躍するうえで必要なスキルは?
スキルではなく、愛ですよ。愛情は伝わります。お客さまへの愛情がいちばん大切だと思います。例えば、平社員のとき、まかないをちゃんと作るのは愛です。
働いている人にとって、三食のうちの大切な一食なので、美味しいまかないを作ることが義務ですが、それは愛に繋がります。
自分が作る番になると、「ラッキー!楽しみ」と言ってくれる人もいて、ワクワクして待ってくれているので、応えていかないといけません。
美味しいもの作るために、例えば分からないことを調べるのも愛です。
―――― 今後の目標は、ありますか。
多店舗展開をしたいです。enisiは、比較的単価が高いお店なので、若い子は頻繁には来られません。お店が多いほど、幸せにできる人が増えます。
今後は、ジャンルは問わないので、お酒とお料理をコンセプトにした特化型で、単価4~5千円の飲食店を開いて喜んでもらえたらいいですね。
お好み焼きでも、燻製でも、中華でも良いと思っていて、お酒を飲んでワイワイできるお店をイメージしています。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジへの入学を検討されている方に、レコールバンタンキャリアカレッジはオススメしていただけますか。
講師との距離が近いことはオススメポイントです。あとは、僕は厳しい環境よりゆるい環境のほうが好きなんで、求める雰囲気とマッチしていて良かったです。
―――― レコールバンタンキャリアカレッジへの入学を検討されている方に、ぜひ前向きなメッセージをお願いします!
結果論、行って良かったです。行って良かったかどうかは10年後に分かること。自分の人生の進め方次第で変わります。
講師とはすごい関わりを持てましたし、自分がイジられやすいキャラだったので可愛がっていただけました。財産です。
こんなに適当だった自分でも、今は自分の作る料理は誰よりも美味しいと思っているし、お客さんにも美味しいと言ってもらっています。
レコールバンタンに通ってから、その後にどう成長してきたかが大事だと思います。
泥臭くても、美味しものにたどりつけているかどうか。僕みたいな一風変わった卒業生もいるので、始め方はどんな形でもいいよ、と伝えられたら嬉しいです。
<SHOP INFO>
enisi
住所:大阪府枚方市川原町4-9 テイクセブンビル 1F
072-391-7550
営業日:月、水~日、祝日、祝前日
営業時間:12:00~15:00 (料理L.O. 14:30 ドリンクL.O. 14:30) 18:00~22:00 (料理L.O. 21:30 ドリンクL.O. 21:30) コースについては一斉スタートです。