21.08.28 24.04.01 更新

<卒業生インタビュー>The Sugar Spot Coffee(ザ シュガー スポット コーヒー) オーナーバリスタ 小林博明さん

学生インタビュー
卒業生
東京校

 

「ウィズコロナ」の時代。 外食産業を担う卒業生たちは、今どのような心持ちでビジネスをしているのでしょうか? 最前線で活躍されている卒業生にヒントをもらうべく、「The Sugar Spot Coffee(ザ シュガー スポット コーヒー)」オーナーバリスタ小林博明さんにインタビューを行いました。

 

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<在校中について>

 

―――― レコールバンタンでのコース名、卒業年次を教えてください。

2012年にカフェプロデューサーコースに入学し、2013年3月に卒業しました。

 

 

―――― 入学されたときはおいくつでしたか?

47歳です。それまで、大手メーカーに25年勤めていましたが、2012年に退職しました。「次に何をやろうかな?」と思ったときに、偶然なのですが両親が亡くなってしまったんです。悲しみもありましたが、と同時に「自分の家族しかいないなら、やりたかったことをやってみよう」と思いました。

もともと、コーヒーが大好きで、19歳から21歳まで喫茶店でアルバイトをしていたんです。カウンターでドリップコーヒーを淹れる仕事をしていたので、10代後半からブラックコーヒーを飲んでいました。10代からブラックコーヒーを飲む人って珍しいと思います。

社会人では、営業をやっていたものですから日本全国を飛び回っていました。各地のカフェを巡り、コーヒーにはとても思い入れがあります。何かビジネスを始めようと思ったときに、家族にコーヒーを淹れることは苦ではなかったんですよね。「これがやりたいことかもしれない」と思い1年間、専門校に通うことにしました。「思い切って自分に投資しよう」という気持ちでした。

 

 

―――― レコールバンタンを選ばれた理由を教えてください。

ひとつには、クリエティブ率が高い印象がありました。東京にもさまざまな調理専門学校がありますが、調理に特化しすぎるスクールは自分の目指さすイメージと違うなと感じました。

2012年、私が通学していた当時は「サードウェイブ」真っ只中。バリスタのチャンピオンシップなども活況でしたし、校舎も代官山、恵比寿なので、こういう場所には感性豊かな人たちが集まっているだろうと思い決めました。

また、私は土日のみに通学する30代、40代向けの社会人コース「レコールバンタン・キャリアカレッジ」ではなく、あえて全日制の「レコールバンタン」を選びました。周りは10代後半から20代の方が多く、入学したときは正直恥ずかしいことだらけでしたよ。まず、クラスメイトに「あだ名をつけよう」という話になって、私のニックネームは「お父さん」でした。15人のクラスメイトに1年間呼ばれ続けましたね(笑)学生の会話も聞けたので、その世代のリアルな感覚を知れたのも良かったです。お金には代えられないくらいの価値があったと思います。

 

 

―――― なるほど。キャリアカレッジではなく、全日制「レコールバンタン」を選ばれた理由は?

仕事を始めたときに、相手をするのは若い方が多いじゃないですか?

でも、それまでサラリーマンをしていたのでその世代の方の感性が全く分からなかったんです。コーヒー業界を目指す10代、20代の人の感覚も分からなくて。なのでたくさんの刺激をもらいましたし、結果的にはとても良かったと思っています。

 

 

―――― 学びたい、身につけたい目標は何でしたか?

エスプレッソマシーンを使いたいと思っていました。

焙煎もしたかったので、レコールバンタンと並行して、年に数回、南千住の「カフェバッハ」の焙煎セミナーで学び、焙煎機も購入させていただきました。

 

 

―――― 印象的だった講師、授業はありますか

調理の船木講師は、厳しい面もありましたがとても面白い講師でした。若い学生はあだ名で呼びますが、船木講師と僕は年齢が近いこともあり「小林さん」と呼んでくれました。すごくタメになりましたね。実は、私は47歳になるまで料理をしたことなかったんです。料理は、レコールバンタンで覚えさせていただきました。

今でも印象的なエピソードがあります。授業でペペロンチーノを作ったときに、黒く焦げてしまってやきそばのようになったときがありました。「焼きそばみたいですね」と私が言うと、船木講師が「焼きそばに失礼だよ」とコメントしてくれたのを覚えています(笑)。

そこから一念発起して、とにかく講師に言われた通り「基本に忠実に」技術を習得していきました。オムレツの授業も成績は良かったのですが「補講を受けさせてください」と自らお願いして、補講を受けました。卵は割り放題ですし、生クリームも使い放題なので、とことん練習して良かったと思います。努力の甲斐あって、あるとき授業でトップの評価を受けたことがありました。船木講師に理由を聞くと「いちばん基本に忠実だったから」と言われて、嬉しかったですね。

今では、パスタもものすごい得意になりましたよ。トマトソースから作ったり、アーリオ・オーリオ・ペペロンチーノを作ったり。家族にふるまうこともあります。

 

 

―――― レコールバンタンでの学びが「実践的だった」「今のビジネス」に活かされていると感じることは?

授業で「日本全国で、10年間飲食店を続けられている割合は4%、96%は無くなっているか違う業種に代わる」ということを知りました。これはすごいことだなと思いました。その4%に入るためには、他のお店にはない差別化をしないといけません。

レコールバンタン・レ―ヴ校舎近くに「chano-ma」というカフェがあるのをご存じでしょうか?お店には靴を脱いであがれるマットレス席があり、ベビーカーでお母さんたちがカフェに来ていました。その内装を知ったときに、「カフェをするのに、差別化がものすごく大事」なんだと分かりました。食事がおいしいお店はどこにでもあります。カフェでも、どんなビジネスでも差別化しないと続きません。

 

 

―――― 印象的だったイベント、販売実習などはありますか。

1日限定でカフェの運営をさせてもらいました。内装からプロデュースできたので、代官山の100円ショップなどに行ってインテリアから揃えましたね。メニューは、ハンバーグと鶏のグリルだったと思います。ドリンクも出していましたよ。僕は接客が恥ずかしかったので、洗い物専門でした。準備を含めてカフェ運営当日まで、流れで経験できたのは良かったです。クラスメイトとのコミュニケーションも良く、役割分担から決められて実践的でしたね。当時の授業は、座学だけでなく新しい物件の塗装を手伝うなど課外授業が多かったのも印象的です。

 

 

<卒業後について>

 

―――― 開業された経緯をお教えください。

それまでは、メーカーの名刺で仕事をしていましたが、退職して会社の名前が消えて、私個人で見たときに「何で勝負できるかな?」と考え不安になりました。

カフェをするなら、ブランド力のある場所でないと厳しいだろうと感じました。当時、自宅が埼玉だったので、例えば箱根、鎌倉、那須なども候補でした。軽井沢なら1時間半くらいで来れちゃうので、軽井沢にしようと決めました。

 

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―――― 開業された時期、場所、店名、コンセプトなど、こだわりをお教えください。

 

<店名・コンセプト>

店名はThe Sugar Spot Coffeeです。

シュガースポットとは、バナナの黒い点々のこと。シュガースポットが出ると食べ頃のサインなんです。焙煎していても、コーヒーを淹れていても、「飲み頃」があります。なので、ウチでは飲み頃のコーヒーを提供していますよ、というのを強調したかったんです。シュガースポットという言葉を知ったのは、山手線内の動画で流れていた英会話レッスンです。「バナナに出る黒い点々はなんていう?」というクイズで「シュガースポット」というサインがあることを知りました。講師から「シュガースポットは、コーヒー屋さんというよりスイーツ屋さんというイメ―じゃない?」と言われましたが(笑)気に入っています。

 

<デザイン>

新宿の意匠計画さんに頼みました。

 

<場所>

軽井沢では、「旧軽井沢銀座通り」と呼ばれるエリアが一等地なんです。別荘族がいっぱいいらっしゃって、その周りに「ベーカリー&レストラン 沢村 旧軽井沢」や「軽井沢 川上庵」があります。なので、そこに近くて駐車場がある場所がいいと思いました。ただし、駐車場を作るとそこに車を止めてお出かけされてしまうデメリットもあるので、いちばんの観光スポットから遠からず近からず、という場所を探していました。

実は軽井沢は上下水道が完備されている地域は限られています。下水を浄化する大きなタンクがあり、そこで浄化しているのがほとんどです。なので、まず「上下水道が完備されている」、「幹線通り沿い」、「建築としての見栄え」を重視しました。

ちなみに、軽井沢は観光地なので、保健所が非常に厳しいです。佐久保険所の保健師さんに「ここで営業許可が取れれば、日本全国どこでもとれる」と言われるほど。観光地の軽井沢で、もしも食中毒が出てしまうと風評被害につながってしまいます。

 

<客層>

お客さまは、東京、埼玉、千葉、神奈川など一都四県からいらっしゃる方が多いです。スーパーの駐車場に停まっている車の多くが外車ということもあります。

あとは、ご家族で軽井沢にいらっしゃる方が多いです。ウチでなぜ、キッズカフェスペースを作ったのかというと高校2年生になる双子を育てているんですが、私が40歳のときに生まれた子なんです。コーヒーが好きですが、赤ちゃんをふたり連れて行けるレストランやカフェがなかったんですよ。なので、どうしても家族で寛げるスペースは作りたいと思っていました。

 

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<お店で使う調理器具、食器はすべて「ル・クルーゼ」>

「ル・クルーゼ」で全て揃えようと思いました。「軽井沢でカフェをやる予定の小林」でアポイントをとり、六本木にあるル・クルーゼの本社まで行きました。私は個人事業主ですが、「法人契約をさせてもらえませんか?軽井沢でカフェをしたいと思っています。卸値で卸してくれませんか」と直談判したんです。

上層部の方が対応してくださり「場所は、どちらでやりますか?」と聞かれたんです。「軽井沢アウトレットモールの近くです。全て御社のブランドを使っていたら、ものすごく宣伝になるじゃないですか?」とお願いし、結果フライパンから鍋まで卸値で仕入れることを了承してもらいました。準備の段階で「倒産したときのこと」も考えていました。何年できるか分からないですし、食器は捨てるか売るか、売れたとしても二束三文にしかなりません。でも、歴史のあるブランド「ル・クルーゼ」なら中古やフリマアプリで値が付くと思いました。もとの値段も高いですからね。

 

 

―――― お客さまは、赤ちゃん連れに加えてワンちゃん連れのお客さまも多いとうかがいました。

The Sugar Spot Coffeeは子連れとワンちゃん連れで満席になることもあります。ワンちゃんを飼っている方にとっては、家族の一員じゃないですか。軽井沢のワンちゃんはよくしつけされているこが多いと感じます。

客層も幅広く、赤ちゃんからお年寄りも入れるお店です。生後2~3か月の赤ちゃんを連れてきてくださる方もいます。自家焙煎コーヒーが味わえて、赤ちゃんからお年寄りも入れるお店は他にないと思います。

コロナ禍になり、軽井沢でも差別化されているイタリアンやフレンチは残っています。

地方で飲食店を開業したい方は、「どういうお店にして、誰に来てもらうのか」という点が非常に大事です。開業時は、授業で行った「ペルソナ分析」を実際に試してみました。ペルソナ分析は自分が、「想定したお客さま」の立場になって店を分析する手法のこと。例えば、お店に「10歳の子供」になりきって来店してみて、どんなことを感じるかを想像していきます。20代の学生、70代など、さまざまな立場で30項目ほど試してみました。自分の掲げたコンセプトが、想定しているお客さまにとっていいのか、悪いのかがよく分かりますよ。是非、開業前に試してみることをオススメします。

自分が想定したお客さまが来ていたら狙い通り!ですし、経営的にも大丈夫です。お客さまは十人十色なので、すべての人に来てもらうことは不可能ですが、自分が来て欲しい層にマッチすればいいですし、そうするとコンペティターがいなくなります。

 

 

―――― 特にオススメのメニューについてお教えください。

自家焙煎コーヒーはぜひ飲んでいただきたいです。もうひとつは、「キーマカレーチーズトースト」(単品800円、ドリンク付き1100円、スープ+ドリンク付き1300円)は長野の雑誌でも紹介されました。浅野屋さんの山型パンの上にチーズ、キーマカレーをのせた人気メニューです。軽井沢発祥のベーカリー・浅野屋さんとは、開店当時から仲良くさせていただいています。

このメニューが生まれた背景には、在学中に「ミルポワ」を学んだことがあります。「ミルポワ」は、ニンジン、タマネギなどの香味野菜をじっくり炒めたもののことで、とても味わい深いです。また、香味野菜を使うと味に奥深さが出て一気にフレンチっぽくなるんですよね。そこに、3つのスパイスを入れて仕上げたオリジナルキーマカレーがポイントです。

実は、自家焙煎は、焙煎する前と後に「ハンドピック」といって、生前の欠点豆や、焼きムラのある豆をはじいたりとても手間がかかります。限られた時間の中で、美味しいフードを提供するのに、「ミルポワ」などの知識が活かされていると思います。

 

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―――― 豆はどこから仕入れていますか?

商社から買っているのと、自分でもハワイ島に行って買い付けています。実は、ハワイ州では「全体の10%にコナコーヒーを入れていれば、ハワイ産100%と言っていい」という決まりがあります。なので、お土産などで買えるものはコナコーヒーが10%ほど含まれているコーヒーという可能性が高く、入っているコーヒーの全てがコナコーヒーという訳ではないんですよ。

グアテマラ、コロンビアなど中南米のスペシャリティコーヒーを扱うお店は多いですし、そこと勝負してもしょうがないです。なので毎年ハワイの生豆を買い付けています。コナコーヒーを買い付けることで差別化しています。お店ではアサイーボウルやピタヤボウルも出しているので、「ハワイ感」を感じてもらえると思います。

 

 

―――― 開業されて経験されたご苦労についてお聞かせください。

始めると、止められません。サラリーマンなら転職がききますが、開店したら辞められない、止められないということは知っておいてほしいです。安易にクローズできません。

開業したい方には、ぜひカフェなどで経験を積んでから開業することをオススメします。

 

 

―――― 新型コロナウィルスの流行で、工夫された点や日頃、心がけていらっしゃることについてお教えください。

セルフサービスに変更しました。昨年まで5、6人スタッフを雇っていましたが今は妻とふたりで営業しています。去年12月頃までは、ご飯ものを出していましたが、今はチーズトーストやフルーツサンドなど軽食を提供することに。2021年7月までに数百万で固定費が浮いたことになります。

セルフサービスに変えたことで、ドリンクもフードも取りに来てもらい食器もお客さまご自身でさげてもらっています。お客さまのところにいかなくていいですし、1m以上のソーシャルディスタンスが取れて感染対策にもなります。

セルフサービスは、今の時代にものすごく親和性が高い気がします。コロナがあけたときに、何が起こるかというと「人手不足」ですよね。飲食店が全面再開したときに、人が足りなくなると思います。売り手市場になると時給が上がることが予想されますので、その状況を避けるためにもセルフサービスを導入して良かったです。繁忙期は、1日100名ほどのお客さまがいらっしゃるので、閑散期で20から30名になっても耐えることができます。あるお客さまにも「韓国や中国の自家焙煎、サードウェイブ系のカフェはほぼ全てセルフサービスだよ」と言われましたし主流のようです。サービスのスタイルを変えたことは、ものすごく勉強になりましたね。

 

 

―――― 飲食ビジネスの面白さ、喜びについて教えてください。

自分が良いと思うことができるところ。それが人に理解されると嬉しいです。歌手も同じだと思いますが、自分が100%いいと思う曲を作つてもファンがいいと思わなければ成り立たないですよね?ビジネスの本質は同じだと思います。あとは、サラリーマン時代と比べると通勤の満員電車に乗らなくていい、ネクタイを締めなくていい、上司の愚痴を聞かなくていいのも良いです(笑)。

 

 

―――― 大変さはどのようなところでしょうか。

健康管理ですね。今、56歳なのですが、年々体にこたえると感じます。今は、朝5時に起きて朝9時に開けて、モーニング、ランチ、カフェタイムと営業し、夜6時から7時には帰宅します。このリズムは崩さないようにしています。他のオーナーさんだと夜遅くまで営業されて、寝るのは夜中1時という方も多いかと思いますが……。

夜は営業せず、体のリズムを整えるように心がけています。

 

 

―――― 飲食業界で活躍するうえで必要なスキルは?

いちばん大事なのは健康管理です。サラリーマン時代は、自分が風邪をひいて休んでも、 二日酔いで調子が悪くても誰かがフォローしてくれました。仕事を引き継げば給料も出ます。

ひとつ象徴的な出来事があります。スタッフ送別会のときに、レストランに行きみんなで牡蠣を食べたんです。そのときに、運悪く3~4人があたってしまって、お店を休まざるをえなくなりました。そのときにあるスタッフから「飲食業で働いているので、私は牡蠣が好きですが食べません」と言われたんです。そこでハッとしましたね。

飲食の仕事をしているからこそ、あたる食材は食べちゃいけないというプロ意識を持つことが大切です。

自分のモチベーションを高く保つこと。1日休めば生活に影響すると考えると、暴飲暴食もしないですし、翌日に疲れが残るような運動はしません。他のオーナーさんも含めて、飲食業界に従事される方は健康に配慮されている方が多いと思います。

もうひとつ「継続は力なり」。いちばん大変なのはいかに日々継続させるか。考える力があると良いと思います。

 

 

―――― レコールバンタン,キャリアカレッジへの入学を検討されている方に

ぜひ前向きなメッセージをお願いします!

18、19歳のときよりも、社会人になってから自分のお金で学ぶのはものすごくいいと感じます。入学してもらえるキットも、包丁はツヴィリングなど10万円から15万円相当の一流アイテムで驚きました。校舎で使う食器も、一流の食器を用意してくれています。

また、優秀な講師が揃っていると感じます。篠崎講師は、とてもいいお人柄で、コーヒーに精通されています。篠崎講師にエスプレッソ、カプチーノを教わったことが得難い経験でした。江沢講師のバーテンダーの知識も非常に勉強になりました。親しみやすく、人間味のある講師が多かったですね。人生相談にも乗ってもらいました。また、正直に「良いものはいい、悪いものは悪い」と評価してもらえたことも良かったです。堅苦しい授業よりも、和気あいあいとしてリラックスできる授業のほうが吸収できることが多いと思います。

 

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http://sugarspotcoffee.com/

9:00~16:00(L.O 15:30)

長野県北佐久郡軽井沢町大字軽井沢1323-1465

定休日:水曜日、木曜日、金曜日

8月:水曜日、木曜日、3月少し長い休暇をいただきます。

 

 

 

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