• <新しい飲食の形>自身のブランドを確立する料理人。「and CURRY」オーナーシェフ阿部 由希奈さん

    2021年05月18日(火)

 

実店舗を持たずに、無店舗経営、間借り経営、シェアキッチン、流し形式で自身のブランドを確立する料理人が増えています。

レコールバンタン在校生も、店舗を持たない“ファントムショコラブランド”「RÉCIT cacao」をスタート。2018年開校「トシ・ヨロイヅカ」オーナーシェフ鎧塚俊彦氏が監修する「グラン パティシエ学科」の選抜メンバーが展開しています。 なぜ、そのような形式が支持されているのでしょうか。気になるメリット、デメリットは?

 

今回は、「流しのカレー屋」として活躍。現在は、アトリエ兼店舗「kitchen and CURRY」を構える阿部 由希奈さんにインタビュー。

これまでの経緯を話してくれました。

 

 

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――――― いつ頃から、「and CURRY」を始めましたか?

もともと、サラリーマンをしていたのですがカレーにハマり始めて。自分でも作りだすようになり、カレーの魅力を伝えるべく発信していました。「and CURRY」というFacebookページを作り、食べ歩きのレポートや、自分で作ったカレーを投稿していたところ、行きつけのたこ焼き屋さんが「そんなにカレーを好きなら、ウチで出してみたら?」とおっしゃってくださり     、2015年8月から、「間借りのカレー屋」をスタートしました。その後業態の違うレストランとのコラボや、地方イベントで創作カレーを作ることもありました。

 

――――― サラリーマン時代、本業とand CURRYの割合は何%くらいでしたか。

2015年当時はサラリーマンで、and CURRYは全体の5%くらいでした。月1回くらいのペースですかね。2016年には、フリーランスになりました。カレーは10%くらいで、月2~3回のペースでカレー屋をやるようになりました。2017年には、下北沢のカレー店で、店主が4ヶ月不在にする間、代わりにカレーを提供する機会をもらいました。他のシェフと3名で交代しながらの営業でしたが、常にお店で「待っていなければならない」ことがもどかしく、流しのほうが自分の性格に合っているなと思いました。丁度、テレビ番組『セブンルール』に出演させていただき、番組開始前フォロワー2,000人だったのが、放送後は6,000人に増えていてビックリしました。たくさんの人に活動を知っていただくきっかけとなり、コラボレーションのお話もいただく機会が増えました。

2018年は、フリーランスの仕事60%、カレー40%くらい。自宅のキッチンでカレーの試作やレシピ撮影をするには手狭になり、2018年7月に「kitchen and CURRY」を開設しました。最初、ここで営業するつもりはなかったのですが週2日だけ「開放日」としてカレーを提供しています。2021年現在は、カレーが100%です。こうなるとは、まったく想定していませんでした。趣味の延長で、自分のペースで始めたので、長く続けられていたのかもしれません。

 

 

――――― アトリエを持たれるメリットは?

以前は、試作した料理は、ベッドの上などびっくりするような場所で撮っていたんです。撮影中にネコが来て大変なことも。場所を持ったことで、より試作や撮影に集中できる環境が整ったと思います。拠点があることでお客さまに来ていただきやすかったり、発信しやすくなった利点もありますね。

キッチンを構えたことで、馴染みのお客さま     が来てくれて、地元に溶け込めるようになったのも良かったと思います。昨日も、地元のイベント『羽根木マルシェ』にたくさんの人が集いました。だんだんお店が増えてきて、街が盛り上がっていくのは嬉しいですし、道を歩いていると近所のお客さま     とご挨拶したり……わたしのキッチンが街をつくるひとつになれているのかなと思います。

 

 

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――――― 「流しのカレー屋」をしていたとき、場所選びでどのような点を重視されていましたか?

わたしの場合は場所を探していたというわけではなかったので、ポイントはありませんでした。たこ焼き屋さんで間借りを始めたとき、炊飯器は持参していました。家からちょっと遠かったので、車で必要なものを運んでいましたね。無きゃないでどうにかなるとは思います。    

 

 

――――― 「流しのカレー屋」を開業するにあたって、かかった費用について可能な範囲で教えていただけますか。また、もしも費用を抑えるように工夫されたことがあれば教えてください。

かかった費用は、看板、ポスターのデザイン費、印刷費のみでした。3万円くらいをかけて開業しています。まずはあるものでどれくらいのことができるかやってみるのが大事だと思っています。やってみて、継続できそうであれば買い足していくのがいいのではないでしょうか。

 

 

――――― 「流しのカレー屋」を営んでいたとき、仕入れはどのように行っていますか。

スーパーに買いに行っていました。スパイスは大久保など専門店で仕入れていました。量が多いので、買い出しは大変でしたね。流しのカレー屋さんをしている方でも、いろいろだと思います。私の場合は、10名分から最大40名分の材料を購入していました。

 

 

――――― オススメメニューを教えてください。

人気3位は黒酢のポークビンダルー。黒酢とカレーの意外性がマッチし、まろやかな酸味が人気です。2位は、夏季限定コンポタージュキーマカレー。フレッシュなとうもろこしを使った、これもカレーなのかという驚きを感じていただける一品です。ベスト1は、ピスタチオのミートボールカレー。ココナッツとピスタチオが入った肉団子をカレールーに入れたメニューです。正直手間がめちゃくちゃかかるのであまりやりたくないメニューです(笑)。他のメニューにも興味のある方は、『スパイスでおいしくなる and CURRY のカレーレッスン』(立東舎)や『野菜が主役季節のカレー』(世界文化社)にもレシピを掲載しているので、よろしければチェックしてみてください。

 

 

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――――― 「流し」というスタイルで経営することのメリットは?

私の場合は、店舗を持たずにいることが性格に合っていると思っていました。攻めの仕事である「営業」職もしていたので、お花見の時期になると、どうしても花見会場にカレーを持っていって売りたくなってしまう(笑)。特に閑散期にお店を開けて待つことは、できないなと思っていました。流しは、色々な場所に行けます。行った先々で出会いがたくさんあります。知り合いが増えて、そこから縁が繋がっていくことが醍醐味だと思います。

 

 

――――― 印象的だった「流し」場所は?

新潟でand CURRYをする機会がありました。オシャレなホステルの一階を借りて営業し、料理教室もしました。新潟名物の食材車麩を使ったカレーを作ったり、ワークショップをしたり。一緒にイベントを開催した人とは、今も連絡を取り合うくらい仲良くさせていただいています。    

 

 

――――― 自身のブランドを確立する楽しさ、喜びについて教えてください。

始めた当初は、「SNSにはカレーの写真と猫の写真しか掲載しない」など、投稿にマイルールを設けていました。「カレーの人なんだな」と印象付けるのが目的です。

自分が好きなものをしつこく投稿することは大事ですね。最近、国産のクラフトビールにハマっているんです。酒屋さんから珍しいビールを仕入れ、     「こういうものをカレーに合わせて飲んでほしい」など、オススメをストーリーにあげています。お客さまもわたしがビールを好きだと認識してくれます。

    

 

――――― 反対に、難しさはありますか。

今、一緒に働いてくてれいるスタッフが数人います。みんなで、酸いも甘いもシェアしながら営業できるのは楽しいのですが、ただ、and CURRYに他の人を巻き込んでしまっていて、「その人のプラスになっているのだろうか」、という点はいつも気にしています。仕事のいいところ、充実感を感じてもらいたい、うちで働いて良かったと思ってもらいたいですし、その上で信頼関係を築いていくことの難しさを感じています。          

今、一緒に働いてくてれいるスタッフが数人います。

 

 

――――― なるほど。役割分担はどのように?

実は、スタッフの1人が間借りを始める予定なんです。間借りでも数十人分のカレーを一気に作る経験はなかなかできないもの。その肌感覚を得てもらうために、3種類のカレーのうち一つはわたしが横について教えながら、作ってもらうこともあります。そんなふうに少しでも役立つ経験をさせてあげられたらと思っています。    

 

 

――――― そうでしたか!是非、スタッフさんにもインタビューさせてください。阿部さんは、2020年2月にご出産されていますが、子育てと仕事を両立するポイントはありますか。

朝の時間を有効に使うことがポイントです 。子どもが生まれて、営業日を増やしたいけれどなかなか難しいのが現実です。1日営業するにしても仕込みに丸一日かかってしまうのでこれ以上は無理だなあと思っていました。    

娘との時間も取りながら、andCURRYとしてお客さまにカレーを提供するためにはどうすればいいかを考えたとき、朝だ!と思ったんです。8月からモーニング営業を始めました。朝に営業して、昼から仕込みをし、翌日のランチ営業をする体制で週4日営業にしています。「朝ごはんが食べられる」というイメージも持っていただけて、新しいチャレンジになったと思います。夫との役割分担は、夫が保育園に送りに行き、私がお迎えに行きます。両立のためにもっとできることがあるんじゃないかなと思っていて、先輩ママから話を聞いたり知恵を絞っているところです。

 

 

――――― ご自身のブランドを確立する喜びを教えてください。

and CURRYのお客さまがSNSで「心身ともに健康になれるカレーだ」など好意的なコメントを寄せていただけるのが嬉しいです。材料の野菜こそ作っていませんが、自分が「いいな」と思ったものでand CURRYを構成しているので、お客さまの喜びを感じた時の充実感は桁違い。B to Cの会社の方なら、似た喜びも感じられるのかもしれませんが、自分が築いたブランドなので喜びも格別だと思います。

 

 

――――― 逆に、辛いとき、大変なときは?

1年前は、新型コロナウィルスのことが何も分からず、本当に不安でした。緊急事態宣言の発令を受けると、諦めにも似た感情になることはあります。

あとは、スタッフが辞めてしまうとき。

「自分の道楽に付き合わせてしまっていたらどうしよう?」「努力して、改善していかなきゃ」という想いが人一倍強いので……。気にせず巻き込んでしまえば、苦労しないのかもしれませんが。

あとは、経営者ならではの「孤独感」もあります。自分以上にand CURRYのことを考えてくれる人はいません。例えば、スタッフにイベント出展を相談し、みんなが意見をくれたとしても、最終的に判断するのは自分。時には、借金をする、お店をたたむなど重い判断をしないといけないときもあるでしょう。

 

 

――――― 今後「and CURRY」をどのように展開していきたいですか。

今は地方に行けませんが、生産者のもとに行き素材を勉強したいです。あとは、抽象的ですが「どんな食の選択をした人も楽しめる場所」を作りたい。ヴィーガン、ベジタリアンの人も、お肉が好きな人も、赤ちゃんも、ワンちゃんも一同に介せるような、幅広いライフスタイルの人が調和できるようなお店作りをやっていきたいですね。

 

 

 

https://www.andcurry.com

kitchen and CURRY

〒156-0042 東京都世田谷区羽根木1-21-24 亀甲新い 1F

Instagram:@yukinaa.m

 

 

 

 

<講師コメント>

もともとサラリーマンをされながら、ご自分のお好きなカレーに魅かれてどんどん好きなことにシフトして、、、最終的に店舗を。こんなストーリーに憧れる方って多いと思います。今現在サラリーマンの方からしたらまさにサクセスストーリーですよね。カレーってサンドイッチみたいに具材を変えると無限の可能性がある商材ですよね。お店を出店されてからも毎日営業しないといけないわけではなくて、ご自分のライフワークバランスを大事にされている印象です。昨今は店舗のない無店舗型が注目されている中で、店舗型でも自分の好きに働ける時代です。これからの活躍、応援してます!!」

 

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中島誠講師

エンタメカフェプロデューサー

(株)ZERO CREATIVE 代表取締役

(株)リノベーションプランニング社外取締役

Instagram:nakajima_makoto_

 

さらに詳しいスクールの特長はパンフレットに
記載しています。お気軽にお問い合わせください。

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