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<新しい飲食の形>実店舗を持たずに、自身のブランドを確立する料理人「流しのビリヤニ」オーナーシェフ奈良岳さん
2021年04月27日(火)
実店舗を持たずに、無店舗経営、間借り経営、シェアキッチン、流し形式で自身のブランドを確立する料理人が増えています。
レコールバンタン在校生も、店舗を持たない“ファントムショコラブランド”「RÉCIT cacao」をスタート。2018年開校「トシ・ヨロイヅカ」オーナーシェフ鎧塚俊彦氏が監修する「グラン パティシエ学科」の選抜メンバーが展開しています。 なぜ、そのような形式が支持されているのでしょうか。気になるメリット、デメリットは?
今回は、流しのビリヤニ (@nagashi_biryani)として活躍する奈良岳さんにインタビュー。
現在のスタイルが確立した経緯を、包み隠さず話してくれました。
――――― いつ頃から、「流しのビリヤニ」を始めましたか?
5年前から始めました。月に2、3回くらいのペースで行っています。
――――― オープンした経緯について教えてください。
小学1年のとき、叔母がパキスタン人と事実婚していたんですが、家に遊びに来るとき、タッパーに詰めたビリヤニを持ってきてくれました。僕が中学生のとき、叔母がドバイに引っ越してしまったこともあり、そこで僕のビリヤニの思い出は止まっていまいした。
大人になり「そういえば、ビリヤニが好きだったなー」と思い出しました。あんなに好きだったビリヤニを食べてないと思い、色んなお店に食べに行ったものの、当時の感動は得られなかった……というのが始まりです。
ちょうど6年前、三軒茶屋でセルフリノベーションした「三茶ハウス」というシェアハウスに住んでいたんです。1階はみんなのリビングになっていて、宴会もしていました。僕のルーツともいえるビリヤニを試作して、色んな人に振る舞っていたんです。ビリヤニは、たくさんの量を一気に作ることができますしね。評判も良く、試食会をする度に「もっとビリヤニをうまく作りたい」と思うようになりました。シェアハウスに遊びに来てくれる方で、バーで働いている方がいて「お店で出してよ」と言われたのがキッカケです。発表の場をもらったので、「じゃあ作ってみますか!」という感じですね。
――――― 最初に営業したのは、どのようなお店でしたか。
神宮前二丁目エリアにある老舗のバーで、何回か呼んでもらいました。そこに食べにきてくれた人が、自分のお店にも呼んでくれて。そんな感じで数珠つなぎで、ご縁が繋がっていきました。
――――― 現在はダブルワークをされていると聞きました。「流しのビリヤニ」と並行してされているお仕事について教えてください。
前職では、建築のプロデュース、コンサルティングに関わっていました。
現在は、会社員として渋谷パルコのCOMINGSOON、副業で商業施設や、下北沢BONUS TRACKの企画にも携わっています。COMINGSOONは食を軸にしたポップアップスペースなので「流しのビリヤニ」をすることで相乗効果も得られていると思います。
――――― 「流しのビリヤニ」は、もうひとつの仕事にどのように活かされていますか。
スペースをどのように商業的に発信し、何をして見せていくかというディレクションの部分だけでなく、最終的には「何をするか」というコンテンツの部分も自分で担えます。自分のコンテンツを持てば、自分でイベントもできます。なので、流しのビリヤニは「コンテンツを育てていく」感覚でやっていますね。僕は、建築を学んでいたので、空間を作るときはDIYもできますし、広い範囲で考えれば、街単位のプロデュースなどにも活かせると思います。
――――― なるほど。場所選びはどのように決まりますか?
食べに来たことがある人が、声をかけてくれることが多いです。初めての人が声を掛けてくださるときは「一回食べに来てください」と言っています。会ったことがある人、行ったことがあるお店に声をかけてもらうことが多く、自分から「やりたいです」っていうことはあんまりないですね。と言うのも、自らやりたいと企画するときは、お客さんを一定数呼ばなくてはいけないので、消耗しちゃいそうな気がするからです。
声を掛けていただければ、そのお店には既存のお客さんがいるので、その方たちに食べてもらえます。ビリヤニを出すことで、そのお店の既存のコミュニティの中に入っていくことができ、そこでさらに新しい出会いがうまれる「サスティナブル」な方法だと思っています。
――――― 開業にあたって、かかった費用について可能な範囲で教えていただけますか。
バーに出店したときは自分の鍋を持っていくのですが、色々な鍋を使った結果、ビリヤニ専用の鍋を買うことにしました。でも、ビリヤニ鍋は日本で売っていません。なので、海外通販ebayでインドから購入しました。送料込みで7,000円くらい。オーダーして2週間くらいで届きました。コストはそれくらいですね。
現状、ブランディング面は何にもできてないので、ロゴやデザインを誰かにお願いするかもしれないと思います。ブランディング的な観点でいうと、手ぬぐいなどのアイテムも販売したいです。
――――― 仕入れはどのように行っていますか。
スパイスに関しては、いいものを買っています。仲の良いスパイス料理屋さんから、スリランカの農園直輸入のスパイスを分けてもらっています。マトンなどを使うときは、ハラールショップに行きます。バスマティライスは重いので、ショップで20kgほど一括購入しています。
――――― ビリヤニのレシピはどのように確立を?
叔母が日本に来たタイミングで教えてもらいました。あとは、ビリヤニ店が料理教室を開いていたりするので、そうした教室に3件ほど参加しました。いろんな人のレシピを参考に、アップデートしています。
――――― オススメメニューを教えてください。
ビリヤニが基本ですが、具材を変えています。マトン、チキン、ビーガンなどを作りましたが、今後もバリエーションを増やしていきたいです。
試行錯誤はしているのですが、特に魚介系は難しいです。魚は味が淡く、タイの炊き込みご飯みたいには美味しくできない。ビリヤニにする前のほうが美味しければ意味がないと思っているので……。この前スルメイカで作りましたが、これはなかなか良かったです。
――――― 価格付けは?
最初は、一杯500円でやっていました。お店によっては、販売手数料を欲しい、というところがあるので、手数料分の数百円を上乗せしたりもしています。また、イベントによっては他の出展者に合わせて値段を変えたりもします。水道、光熱費、家賃はかかっていません。条件は、場所を貸してくれる人によって変わりますが、基本は呼ばれていくのでそこまで厳しくないですね。
――――― 「流し」というスタイルで経営することのメリットは?
他のことをやりながら、自分が提供するものの可能性を試せると思います。流しの場合は「お客さんがいるところ」が連鎖的に見つかっていくので、そこが魅力です。
続ける目的として、「ビリヤニを食べてもらいたい」というのはもちろんありますが、初めての場所にビリヤニを作りに行き、知らない人と出会えて、お店のコミュニティに入っていける感じは、流しならではの面白さです。
――――― 本職とのバランスについては?
始めたときから変わっていません。基本的に、ポップアップスペースの仕事がメインで、ビリヤニはサブというのが自分には丁度いいと思っています。
――――― 営業は、どのような業態のキッチンでも出店できるものですか?
カセットコンロを持っていくので、基本的にはどんなキッチンでも作れます。調理道具は全部自分で持っていくので、できないところはないですね。キッチンによって、使いやすい、使いにくいはありますよ。チシタ食堂の石川さんが間借りをしている「36.5℃ Kitchen」のキッチンはめちゃくちゃ使いやすかったです。
――――― ご自身のブランドを確立する楽しさ、喜びについて教えてください。
流しのビリヤニが名刺代わりになっていること。自己紹介をしなくても自分を知ってもらえているというのはすごく嬉しいです。
――――― 反対に、難しさはありますか。
調理面で言うと、味わいを安定させること。コンロを持っていくので、物理的にはどこでも作れますが、味を決める変数が多いと思います。個人的に、味の面で頭打ち感を感じることもあります。
もうひとつは、調理器具が制限されること。本当は、土器を使いたいと思って試しているんですが、いざ使うとなると持ち運びが大変だったり、半日土器を水につけたりしないといけないので、難しい。そうした縛りがあることに、もどかしさを感じますね。
――――― 実店舗に対してはどのようなお考えをお持ちでしょうか。
興味はある、という感じでしょうか。8月からは、月3回ほど呼ばれて、色々な場所に出張しました。今月は本業も忙しかったので、1回のみ営業しています。
――――― 仕事の大変さは?
仕込みについては“始めるまでは”しんどいときもあります(笑)40名分、100名を一人で仕込みます。始めてしまえば楽しいんですけどね。
――――― 今後、「流しのビリヤニ」をどのように展開していきたいですか?ビジョンを教えてください。
自分の場所を持ち、社会に対して発信していけたらいいなと思います。普段から料理するので、「この食材でビリヤニを作ったらうまそう」というアイデアは、自然と湧きます。海老のアメリケーヌソースやイカ墨といったアイデアはあるので、新しい食材を使ったビリヤニを提案していきたいです。
―――――――― これから「無店舗経営」を始めたい人にアドバイスをお願いします。
ビリヤニは、たまたまブルーオーシャンだったと思います。ここ数年で、だいぶ認知も広まってきたと思いますので、その一助になれたのなら光栄なことです。飲食業界においても重要なのは、「独自のコンテンツ性」だと思います。こだわりが語れるか?もとても大事。熱意や独自性があれば、人を惹きつけることができると思います。
<中島講師コメント>
「お恥ずかしながら勉強不足でして「ビリヤニ」ってなんだろうって思って調べてからスタートしました。おっしゃっている通りブルーオーシャンなキーワードで、PRする意味でもニッチワードを推すと独自性を持つことができ、他との差別化もできますよね。またご本人の幼少期の思い出の味ってところも甘酸っぱくてストーリーテリングの際にほっこりしながらお客様も聞けるかなって。本業をしっかり持ちながら本業との親和性があるところ、既存のコミュニティがあるところに営業しに行くところがご自分のペースで自由に展開されているところが印象的でした。これからの活躍、応援してます!!」
中島誠講師
エンタメカフェプロデューサー
(株)ZERO CREATIVE 代表取締役
(株)リノベーションプランニング社外取締役
Instagram:nakajima_makoto_
さらに詳しいスクールの特長はパンフレットに
記載しています。お気軽にお問い合わせください。