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<新しい飲食の形>実店舗を持たずに、自身のブランドを確立する料理人「揚げ物とクラフトビールのお店 FRYDAY NIGHT」オーナーシェフ 残間 萌さん
2021年04月22日(木)
実店舗を持たずに、無店舗経営、間借り経営、シェアキッチン、流し形式で自身のブランドを確立する料理人が増えています。
レコールバンタン在校生も、店舗を持たない“ファントムショコラブランド”「RÉCIT cacao」をスタート。
2018年開校「トシ・ヨロイヅカ」オーナーシェフ鎧塚俊彦氏が監修する「グラン パティシエ学科」の選抜メンバーが展開しています。なぜ、そのような形が支持されているのでしょうか。
気になるメリット、デメリットは?
今回、お話をうかがったのは、流しの揚げ物屋「FRYDAY NIGHT」オーナーシェフ 残間 萌さんです。
――――― いつ頃から、間借り経営を始めましたか?
2020年3月1日にスタートしました。
10代のときも、とんかつ屋さんでアルバイトしていて、根っからの揚げもの好きなんです。私自身は揚げ物が異常に好きなんですが、一般的な方は健康面を考えて、少し特別な日に召し上がるものかな?と。
一言で揚げものと言っても、天ぷら屋、とんかつ屋など専門性が高いジャンルだと思うので、一つの場所で色々食べられたら嬉しいなとも考えました。揚げものにフレッシュな野菜のソースを添えたり、野菜を自然に摂ることが出来るメニューや胃もたれをしにくい揚げものである事が裏テーマでした。
……でも、実はこれらの理由は、後付けに近いんです(笑)。本当は、もっとふざけた理由があるんです!
ある日「フライデー(金曜日)はフライ(揚げもの)の日」というアイデアが浮かんで、その言葉から着想しました。当初は別で仕事をしている事もあって、間借りをできる日が週に一度と決まっていたんです。
そのため、せっかくであればイベント性の高い少し尖ったお店を出したいという気持ちがあった。そこで、土日休みの方が、開放的な気分になれる華の金曜日に揚げ物を出したいなと考えたんです。
私自身もお酒が大好きなので、揚げ物と間違いなく相性が良いということで揚げものとクラフトビールのお店にしました。
――――― 間借り経営を始める前は、どのようなお仕事をされていましたか。
会社勤めをしていました。5年ほど、事務をしていたんです。仕事のことで悩んでいるとき、友人から「飲食業界に転身するのもいいんじゃない?」と言われて。
正直なところ、転職は考えていなかったのですが、西荻窪にある飲食店をオススメされて、実際に食べに行ったらすごく美味しくて。そのお店が偶然スタッフを募集していたんです。ご縁をいただき、転職することにしました。
――――― オープンした経緯について教えてください。
一年くらい、その飲食店に勤務していました。でも、コロナの影響で「FRYDAY NIGHT」を始めてすぐに働くことが難しい状況になってしまったんです。
当時、29歳で、正社員ではなくアルバイトだったこともあり「このままでいいのかな」という想いも少なからずありました。もともと、お世話になっていたお店が独立してお店を出される方が多いお店だったこともあり、自分の気持ちを試したいと思い「FRYDAY NIGHT」をスタートさせました。始めたのは、2020年3月1日です。感染者は増えているけれど、緊急事態宣言発令される前で、当時はそこまでの緊張感はありませんでしたね。
――――― 場所選びでどのような点を重視されていますか。
一目惚れに近いです。スペースの雰囲気は、お店のイメージに直結しますので直感的に良いなと思ったところと、自宅からも近いことを重視しますね。
「間借り」だと、例えば「あ!あの道具を持ってくるのを忘れた!」と、緊急を要する場合は、自宅に取りに帰ったりすることもあるので。
「これから間借りをしたい」と思っている方に、ひとつアドバイスをお伝えすると、レンタルで借りている時間内に、その調理場で仕込みをすることが当然求められています。許可がおりている場所で「調理提供」するので、借りる場所と提供するメニューとの擦り合わせが最初は難しいかもしれません。その点を意識して出店するジャンルを考えると良いと思います。
揚げものは、肉食材の下処理をしておけば、お客さんの目の前で調理できるので、その点も考慮して揚げものを選びました。
――――― 開業にあたって、かかった費用について可能な範囲で教えていただけますか。
私が借りたのは、カウンター5席の小さなお店でしたので、費用は抑え目だったかと。あとは食器や精算管理に必要な備品の購入。POPなどですかね!ロゴのデザインも依頼しました。
「揚げもの」ということで「重飲食」(※1)可の、カレー屋さんにしました。カレーと揚げものの共通点は、油をたくさん使うところ。油を使わない厨房よりも、いろいろと理解していただけるのかなと思いました。もちろんキッチンは綺麗にしてから帰りますが、業種に対してある程度は理解があったり、近い方が長く付き合えるだろうと考えました。
間借りはお店に直接申し込んだので、その点も初期費用は抑えるポイントだと思います。賃料は、借りている時間に対してのお金+売り上げに対して何パーセントという設定でした。ポータルサイトなどに書かれている費用は、当然ながら掲載費や利用料金があるので相場よりも少し高めに書かれている場合が多い気がします。
その他に、食材原価がかかります。私の場合は、お客さんに美味しいものを食べてほしくてかなり原価をかけてしまうタイプ(笑)黒字にするのは本当に本当に大変です。原価を抑えるポイントとしては、営業時間を長くすることですかね。連日営業できるのであれば、更に良いです。最初は夜の営業だけでしたが、最終的には一日営業に切り替えて営業時間を長くとっていました。
――――― 仕入れはどのように行っていますか。
生鮮食品はモノを見たいので、なるべく専門店や大型のスーパーで。飲食店でお世話になっていたので、大口の場合はネット経由で業者から発注することもありました。あとは、お酒に関しては、こだわりたかったので、お世話になっている酒屋さんにお願いしたり、取り扱うクラフトビールやお酒は可能な限り工場見学もさせていただきました。食材の質は下げたくなかったので「売り切れごめん」で売り切るスタイルにしていました。
――――― 食器はどうしていますか?
お店のものを使っていいよ、と言って貰っていました!ただ、カレーと揚げものではどうしてもお皿が合わない(笑)おつまみに使わせてもらったり、グラスを使わせてもらっていました!ほとんどの飲食店の方が使っていいですよと言ってくださるかと思います。初期費用も変わってきますので、事前に確認してみてください。
――――― オススメメニューを教えてください。
ハムカツは定番でした!あとは、アボカドを包んでサルサソースを掛けた揚げ春巻き、ブリを揚げたブリかつ、桃のフリットは驚かれます。ジャガイモとベーコンのかき揚げも好評です。
揚げ油は、食材の風味を邪魔しない米油を使っています。とんかつを出すときはラードを足したり、ものによってはフルーティなオリーブオイルを使ったり。油にもこだわっていますけれど、集客がどれくらい見込めるかによって調整しないといけないところもありますね。
妄想をするのが好きでして(笑)レシピを考えるのは、100%妄想が出発点!「こんなのを組み合わせたら美味しそう」というイメージで考えます。美しい料理写真を見るのもすごく好きなので、見たもの、美味しそうなものが自分の中に記憶されている気がする。あとは、お料理を食べさせていただいたときに感動した体験……それらのベースからアイデアを出すので、メニュー作りに悩んだことはありません。揚げものをやってみて、「揚げもの」というジャンルの受け皿がと広いな!と感じています。
――――― 「間借り」で経営することのメリットは?
ローコストで始められること。
キッチンカーという選択肢はありませんでしたね。ノウハウがある訳でもないですし、キッチンカーも出店の許可を取らないといけません。経験がまるでない事と、もう既にキッチンカーを出している人もいる中で、どうやって販売場所を見つければいいのか?イメ―ジできませんでした。私にとっては、お店を間借りするほうがシンプルでした。
――――― 「間借り」の大変さは?
荷物が、とにかく重いこと(笑)小麦粉、揚げ油など食材は全部持っていっていたので。揚げ鍋に関しては、お店との仲を深めてから「すみません、置かせてください」と頼んでいました。
お店は、一人で始めようとしていたというよりは、売り上げが立つか分からなかったので、人を誘えなかったという部分はあります。雨の日も風の日も、相当重い荷物をUber Eatsのバッグに入れて出かけていました。
実は、メルカリで黒いリュックを買ったと思ったら、Uber Eatsのロゴが入っていたんですよ。(笑)返品してもいいんでしょうけれど、保冷も保温もできて便利なのでそのまま活用していました!
――――― 日本全国で展開が可能かと思います。どのようなご縁で出店場所が決まるのでしょうか。
出展は、ご縁で決まっていく感じです。本当に、ご縁に頼りまくりです。あとは自分の言ってみたい場所にコンタクトを取ってみるというのも大事かと思います!
――――― ご自身のブランドを確立する楽しさ、喜びについて教えてください。
FRYDAY NIGHTを作るときに、お店を借りるとなると「場所」というカラーを出せない部分がどうしてもあるので、ロゴやメインのビジュアルはしっかり作り込みたい。妥協したくない。と思っていました。それこそが看板であり、私にとっての「お店」そのものなので。ビジュアルは、DM、ポスター、名刺にも使いますし、全てのイメージを決めます。そこで、大好きな画家の小磯竜也さんにメインビジュアルをお願いしました。私の頭の中のイメージをそのまま昇華してくださったような作品で、小磯さん自身も楽しく描いたと言ってくださったのがとても嬉しかったです。手描きという作風に料理の手仕事。その点に強いシンパシーを感じていました。ビジュアルをお願いできたというのは、ブランドを作ることの大きな楽しさでしたし、形があることで広がってくものがとても大きかったです。お店を出していて辛い時も、絵を見るととても励みになりました。好きなアーティストにキャンバスに描いてもらったことを想うと「ここに自分自身のやりたいことがある」と再確認できました。形のないものに、形を与えてもらいました。絵をキッカケに来てくださる方も多く、気の合う人にも出会うことができました。とても嬉しかったです。
――――― これまでに、経験した困難は?
スタート当初は、緊急事態宣言と重なりとても大変でした…1週目、2週目は有難いことに満席を何回転かして、とても忙しくさせてもらっていたんです。
緊急事態宣言後の3週目くらいからはパタっと人が来なくなって「行きたいけれど行けない」という連絡が何件もありました。私自身も「どうしよう」と。そこで一回、お弁当に切り替えたりもしました。店内での提供がだいぶ難しくなり、辛い気持ちでいっぱいでしたね。せっかくお店を貸してもらって、ロゴを作っていただいて、間借りがスタートしたばかりで状況が変化してしまった。大切な収入源だけれど、生活自体が大きく変わってしまっているなと、気持ちも揺れ動きました。
既存の店舗を持っている訳ではないので「そもそも、続けていいのか?」という悩みもありましたね。当時は、コンセプトもポップでイベント性が高いので営業していいのかなと。今は、「やってもいい」と思っています。それがないと生活できないというのは、誰も否定しようがない事実ですし、お店をお持ちの方と同じくらい真剣な気持ちでのぞんでいます。
――――― 実店舗に対してはどのようなお考えをお持ちでしょうか。(そもそも欲しいと思っていない、など……)
やはり、拠点となるお店は持ちたいです。間借りをする事でその気持ちは明確になりました。2020年の4月半ばから下北沢にあるBONUSTRUCKという施設で出店している時、発酵デパートメントでお仕事をさせていただいたんですね。そこで、「南風食堂」の三原寛子さんと出会い意気投合しまして。三原さんは、国際中医薬膳師とインド政府機関BSS認定のアユールヴェーダの資格を持たれていて。このような時だからこそ「養生」となるような健康に良い食事を提案する事業を立ち上げたいというお話をしてくださったんです。
三原さん御自身の経験を基に、病を抱えて食事制限している方やお子様にも美味しく食べてもらえる、調理する人には負担が軽くなるような「養生食」はとても良いなと心から共感しました。
そして「南風養生」という会社を一緒に立ち上げてることになりました。
ブランド化に向けて、今は物件を探したり、ホームページを作成したり、ロゴを手配したりしています。今後はステップアップとして「南風養生」に注力していきたいと考えています。
こうして「南風養生」に携わることができるのも「FRYDAY NIGHT」として間借りをやったからこそですね。
「南風養生」のメンバーと共に働けることの喜びを噛み締めています。
――――― 今後、「FRYDAY NIGHT」をどのように展開していきたいですか?ビジョンを教えてください。
「流しの揚げもの屋」と名乗っていますので、さすらいの感じなんですよ(笑)でも、ご要望していただく限りは小さくやっていきたいです。私自身は友だちが多いタイプではないのに、FRYDAY NIGHTを始めたことで、たくさんの人と会うことができましたので。こんなに色んなことが変わるとは思いませんでしたし、やる前とやった後では全く見える景色が違いました。自分が動くことで紡がれていく縁があるのではないかと思います。
※1重飲食……煙や臭いが出るため、大掛かりな廃棄肺炎施設が必要な業種。具体的には「中華」「居酒屋」「焼肉」など。
<中島講師コメント>
「まずブランド名と内容がわかりやすいですw 精度の高いブランディングに感服します。揚げ物にはクラフトビールと揺るぎないマリアージュをさらっと提案されているところもとてもスマートな演出です。お客様に味わっていただきたい体験もイメージが眼前に広がる程、明確です。アクティブに活動されたことで自身の更なる活躍の場が開かれたように波及効果があったことも無店舗化でやったことのメリット。情熱の上に成り立つ個人事業主としての覚悟がファンの方々を集めれたのだと思います。これからの活躍、応援してます!!」
中島誠講師
エンタメカフェプロデューサー
(株)ZERO CREATIVE 代表取締役
(株)リノベーションプランニング社外取締役
Instagram:nakajima_makoto_
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